『月刊ゴルフマネジメント』2024年11月号に代表理事である木下裕介の連載の第5回が掲載されました

2024年11月1日発行の『月刊ゴルフマネジメント』2024年11月号に代表理事である木下裕介の「ゴルフ場のデジタル革新」の連載の第5回が掲載されました。

今回は「テクノロジー活用で拓かれる持続可能な未来のゴルフ場運営」というタイトルで、ロボット技術、SNS、AIという3つの革新的なテクノロジーに焦点を当て、これらが持続可能なゴルフ場運営にもたらす変革の可能性についてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

目次

本文

「ゴルフ場のデジタル革新」というテーマで連載を執筆させていただいております木下裕介(きのしたゆうすけ)です。現在は、ゴルフ会員権売買の住地ゴルフ、栃木県のさくら市のセブンハンドレッドクラブ、お丸山ホテルのCOOを務めています。今回、私自身がIT業界からゴルフ業界に転身して来たという背景からコンピューター特集の執筆をさせていただくことになりましたので、ご一読いただけますと幸いです。

ゴルフ業界におけるIT活用は、ここ数年で急速に進展しています。予約システムのオンライン化やGPS搭載のゴルフカートなど、すでに多くのゴルファーが日常的にテクノロジーの恩恵を受けています。しかし、これはまだ始まりに過ぎません。

本特集では、ロボット技術、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、そしてAI(人工知能)という3つの革新的なテクノロジーに焦点を当て、これらがゴルフ場の持続可能な運営にもたらす変革の可能性を探ります。従来のゴルフ場運営をアップデートし、いかにしてお客様のプレー体験やゴルフ場スタッフの運営効率を向上させるか、その未来像を描き出していきます。

①ロボット技術

ゴルフコース管理へのロボット活用事例

ゴルフコースの維持管理は、ゴルフ場運営において最も労力と費用がかかる部分の一つです。ここに「中小企業省力化投資補助金」など利用可能な補助金を積極的に活用し、ロボット技術を導入することで、大幅な効率化と品質向上が期待できます。

自動芝刈り機の導入事例が増えています。GPSとセンサーを搭載した自動芝刈りロボットを導入し、熟練したコース管理スタッフの走行ルートを基に同様の作業を夜間に自動で行うことで、コース品質の向上と人件費の削減を同時に実現することができます。

さらに、ドローンを用いて施肥や散水を行うスマート農業的アプローチも始まっています。栃木県のセブンハンドレッドクラブでは、株式会社アクションコーポレーションや株式会社セキドと連携した実証実験を開始しています。

ドローンに搭載した赤外線カメラで上空からグリーンを撮影し、土壌センサーと連動して芝生の状態を細かく分析し、必要な箇所に必要な量の水や肥料を供給します。ドローンで薬剤を散布する場合、超高濃度で散布するために葉面からの吸収に優れ、バッテリーのためCO2を排出せずに水量も少なくて済むという環境負荷の利点も見込むことができます。

接客サービスへのロボット活用事例

フロント業務や接客サービスにもロボット技術の波が押し寄せています。

チェックイン・精算プロセスの自動化は、すでに多くのゴルフ場で導入されています。タッチパネル式の自動チェックイン機を使用することで、混雑時の待ち時間を大幅に削減し、スタッフは他の重要な業務に集中できるようになります。

また、レストランにおいては、タブレット式のオーダーシステムを導入することでスタッフ人員を削減したり、配膳ロボットを導入することで料理の配膳や下膳を効率化したりするゴルフ場も増えてきています。

多言語対応も、ロボット技術の大きな利点です。増加する外国人ゴルファーに対して、ロボットによる多言語での案内やサポートは、人間のスタッフでは難しい24時間対応を可能にし、外国人ゴルファーの顧客満足度の向上に寄与することでしょう。

清掃業務などその他業務へのロボット活用事例

クラブハウス内の清掃業務に清掃スタッフの人手を要しているコースでは、家庭用掃除ロボットと同様に決められたルートを自動的に清掃し、ゴミの収集を行う清掃ロボットを導入する事例が増えてきています。

埼玉県の石坂ゴルフ倶楽部や愛知県のセントクリークゴルフクラブなどをはじめとして様々なゴルフ場で既に導入されており、スタッフの方に話を聞いてみると、ゴルファーがクラブハウスに持ち込んでしまう砂の清掃が既存の掃除機よりも効率的に実施できると好評でした。

②SNS

SNSは、ゴルフ場の集客、ブランディング、そして人材採用に至るまで、幅広い分野で活用されています。その戦略的な利用は、ゴルフ場の競争力を大きく左右する要因となっています。

主要SNSプラットフォームの活用状況

昨年のゴルフ場コンピューターアンケートの結果によると、主要SNSプラットフォームの活用状況を見ると、Facebookが67.6%、Instagramが51.3%、LINEが51.3%、X(旧Twitter)が21.6%のゴルフ場で利用されています。各プラットフォームの特性を活かした戦略が求められます。

去年のコンピューターアンケートの画像を差し込んでもらえると嬉しいです(2023年10月号の⑨)

Facebookは幅広い年齢層に利用されており、詳細な情報発信や顧客とのコミュニケーションに適しています。例えば、コースの最新情報やイベント告知、プレー後の感想共有など、多様なコンテンツを発信することで、顧客との関係性を深めることができます。

Instagramは視覚的な訴求力が高く、美しいコースの風景や施設の魅力を伝えるのに最適です。「インスタ映え」を意識したスポットの設置や、ハッシュタグキャンペーンの実施など、ユーザー参加型のコンテンツ作りが効果的です。

LINEは直接的なコミュニケーションツールとして、予約確認や天候情報の通知、クーポン配信など、顧客サービスの向上に活用されています。

Xは即時性が高く、リアルタイムの情報発信や顧客との対話に適しています。コースコンディションの更新やトーナメント情報の配信など、タイムリーな情報提供に活用されています。

SNSを通じた集客・プロモーション事例

SNSのユーザー生成コンテンツ(UGC)を活用し、効果的に活用したプロモーション事例も増えています。UGCは信頼性が高く、潜在的な顧客に対して強い説得力を持ちます。また、コンテンツ制作のコストを抑えつつ、常に新鮮な情報を発信できるというメリットもあります。

例えば、千葉県の市原ゴルフクラブでは、Instagramでコースのコンペ情報を定期的に投稿しながら、フォローといいねで応募可能なキャンペーンを並行して実施することで多くのフォロワーを獲得したり、ハッシュタグを設定してプレーヤーの投稿を募り、優れた投稿に対して賞品をプレゼントするキャンペーンを7月より開始しています。

また、FacebookやInstagramのストーリー機能を活用し、コースの裏側や日々の管理作業の様子を公開するゴルフ場も増えています。これにより、ゴルファーとの距離感が縮まり、ファンの獲得につながっています。

LINEを活用した会員向けの特別クーポン配信や、Twitterでのリアルタイムキャンペーンなど、各SNSの特性を活かした集客施策も効果を上げています。

採用媒体としてのSNSアカウント活用事例

SNSは人材採用の面でも重要な役割を果たしています。ゴルフ場のホームページに加えて、公式SNSアカウントを通じて、職場の雰囲気や仕事の魅力を発信することで、優秀な人材の獲得につながっています。

具体的な活用方法としては、以下のようなものが挙げられます:

  1. 日常業務の紹介: スタッフの日々の業務風景や、チームワークの様子を投稿することで、職場の雰囲気を伝える
  2. 社員インタビュー: 様々な部署の社員にスポットを当て、仕事のやりがいや成長の機会について語ってもらう
  3. 研修・イベントの様子: 社員研修や社内イベントの様子を共有し、人材育成や社内文化に力を入れていることをアピールする
  4. 採用情報の発信: 新卒採用やキャリア採用の情報を、タイムリーかつ詳細に発信する
  5. インターンシップ情報: 学生向けのインターンシップ情報を発信し、将来の採用につなげる

SNSを採用媒体として活用する際は、一貫したメッセージと企業ブランディングが重要です。単なる求人情報の発信だけでなく、ゴルフ場の理念や社風、そして従業員の生の声を伝えることで、企業の魅力を最大限に引き出すことができます。

例えば、埼玉県の東松山カントリークラブでは、キャディとコース管理でそれぞれInstagramとTikTokのアカウントを作成し、それぞれで仕事をイメージしやすい投稿を通して魅力を発信することで多くのアクセス数を獲得しています。

また、太平洋クラブのInstagramの採用アカウントは、上記に挙げたようなポイントに加えて、福利厚生や社員の休日の過ごし方など求職者が働くイメージが湧きやすいようなコンテンツが統一されたデザインで投稿されています。

SNSデータ分析によるサービス改善

SNSは貴重な顧客の声を集める場として様々な業界で活用されています。飲食店などでは、SNS上の投稿分析から顧客の不満を発見し、そこから改善を実施を行い、顧客満足度を向上させるPDCAサイクルを回すための方法として積極的に活用されています。

ゴルフ場でも、ポータルサイトの口コミに加えて、SNSでの投稿分析を積極的に実施することで幅広い年代の顧客の声を収集できるようになり、顧客満足度向上と運営効率化を同時に実現することができるでしょう。

③AI

近年、ChatGPTやClaude AIなどの登場により、AIテクノロジーが私たちの日常生活により身近なものとなりました。ゴルフ業界においても、AIの活用が進んでいます。

例えば、キャロウェイが膨大なスイングデータをAIに学習させた「AIスマートフェース」をドライバーやパターなどのクラブに採用したり、住地ゴルフが特許を取得したゴルフ会員権の時価評価ロジックに活用したりと、様々な場面でAIが活躍しています。

このような流れの中で、ゴルフ場運営にもAIを効果的に活用できる可能性が広がっています。

AIを活用したゴルフ場の集客や運営の最適化

昨年のゴルフ場コンピューターアンケートの結果によると、WEB予約比率は32.8%でしたが、今後のゴルファーの年齢層を考慮するとこの比率は増加していくこととなるでしょう。そのような中で、AIを用いてゴルフ場の料金をダイナミックプライシングにより最適化することは、収益最大化に必要不可欠になります。

ダイナミックプライシングとは、需要と供給、予約のタイミング、顧客の行動パターンなどに基づいて価格をリアルタイムで調整する手法です。例えば、ピーク時には価格を上げ、閑散期には割引を提供することで収益を最大化します。

また、来場者数予測と効率的な運営もAIの得意分野です。過去データと外部要因を分析し、高精度な予測を行うことで、スタッフの人員配置や、ティーグラウンドやピンボジションの選定などコース運営の最適化が可能になるでしょう。

AIによるゴルフコース管理の効率化

既に農業などの分野では、害虫・病気の早期発見と対策にも、AIが活躍しています。画像認識技術で微細な兆候を早期発見し、被害拡大前の効果的対策が可能になっています。

そのため、先述した赤外線センサーや土壌センサーなどを用いて、ゴルフ場のフェアウェイやグリーンの芝生や土壌の健康状態をデータ化しつつモニタリングすることで、AIが各エリアに必要な水や肥料量を精密に計算し、無駄を省きつつ、最適なコンディションを維持するための施肥や散水を行うことができるでしょう。

持続可能なゴルフ場運営に必要不可欠なテクノロジーとの共存

AI、SNS、ロボットの融合は、これまでにない新しいゴルフ場運営を実現可能にします。AIがゴルフ場の集客状況やコンディションを分析し、最適なティーグラウンドやピンポジションを提案。ロボットがそれに基づいてゴルフ場運営をサポートし、ゴルフ場スタッフはSNSなどを基に収集した顧客の生の声を基にゴルフ場の体験をよりアップデートしていく。そんな未来が現実のものとなりつつあります。

データ駆動型の経営は、顧客満足度の向上と経営効率化の両立を可能にします。プレーヤーの好みや行動パターンを詳細に分析し、一人一人に最適化されたサービスを提供することで、リピーター率の向上や新規顧客の獲得につながります。

環境負荷低減と持続可能なゴルフ場運営も、テクノロジーの活用によって実現可能です。省エネ技術や再生可能エネルギーの導入、水資源の効率的利用、生物多様性の保全など、環境に配慮しつつ魅力的なコースを維持することが可能になります。

さいごに

テクノロジーの導入は、ゴルフ業界に大きな変革をもたらしています。しかし、その過程には課題も存在します。

例えば、ロボット技術導入における最大の課題は、初期投資コストと運用ノウハウの確保です。特に中小規模のゴルフ場にとっては、高額な設備投資が障壁となる場合があります。この課題に対しては、段階的な導入計画や複数のゴルフ場での共同導入など、柔軟なアプローチが求められます。

また、テクノロジーに対するゴルフ場スタッフやゴルファーの受容性も考慮が必要です。特に、テクノロジーに抵抗感を感じる層に対しては、新しいテクノロジーの利点を丁寧に説明し、段階的に導入していくことが重要です。

一方で、テクノロジー導入の展望は明るいものがあります。ゴルフ体験の質的向上、運営効率の改善、環境負荷の低減など、多方面でのメリットが期待できます。特に、若年層や新規ゴルファーの獲得において、テクノロジーは大きな武器となるでしょう。

ゴルファーとテクノロジーの共存も重要なポイントです。テクノロジーはあくまでもゴルフを楽しむための道具であり、ゴルフの本質を損なうものであってはなりません。プレーヤーの技術向上や楽しみの拡大に貢献し、同時にゴルフの伝統や精神を尊重する。そのバランスを取ることが、今後のゴルフ場運営の鍵となるでしょう。

最後に、ゴルフの本質を守りながら進化する未来について考えてみましょう。テクノロジーの導入により、ゴルフはより身近で、より楽しく、より持続可能なスポーツになる可能性を秘めています。しかし、技術に頼りすぎることなく、自然との調和、仲間との交流、自己との挑戦といったゴルフの根本的な魅力を大切にしていく必要があります。

テクノロジーとゴルフの伝統のバランスを取りながら、新しい時代のゴルフ文化を創造していく。それが、これからのゴルフ場運営に携わる全ての人々に求められる姿勢ではないでしょうか。

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