『月刊ゴルフマネジメント』2025年7月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第13回を掲載いただきました。
今回は「ゴルフ場のダイナミックプライシングによる収益最大化」というタイトルで、ゴルフ場のレベニューマネジメントにおいて注目かつ重要視されている「ダイナミックプライシング」についてとその導入手順についてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

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現代において、デジタルトランスフォーメーション(DX)はあらゆる業界で不可欠です。ゴルフ業界も例外ではなく、特に「ダイナミックプライシング」は経営革新の鍵として注目されています。
ダイナミックプライシングとは何か?
ダイナミックプライシングとは、需要と供給、時期、天候などに応じて価格を柔軟に変動させる戦略です。その主な目的は収益の最適化であり、需要が高い時期には価格を上げ、低い時期には下げることで、売上を最大化し損失を抑えます。これにより、繁忙期と閑散期の需要を平準化し、リソースの有効活用を促進します。ゴルフ場にとってティータイムは当日を過ぎれば価値を失う「消滅性在庫」であり、この戦略は各ティータイムの市場価値を最大限に引き出すものです。
ゴルフ場経営が直面する課題とDXの必要性
日本のゴルフ業界は市場規模の縮小に直面してきましたが、コロナ禍で「3密回避」可能なレジャーとして新たな顧客層を獲得する機会を得ました。この流れを持続的な成長に繋げるにはDXが不可欠であり、ダイナミックプライシングはその中心を担います。柔軟な価格設定は、新たな顧客層の参入障壁を下げ、多様なニーズに対応することで収益性を高める戦略的な転換点となるでしょう。ダイナミックプライシングは、多くの業界でその効果が実証されています。
他業界のダイナミックプライシングの事例
ホテル業界:稼働率と収益の最適化
ホテル業界はダイナミックプライシングの導入が最も進んだ業界の一つです。大型連休やイベント時には価格を上げ、閑散期には下げることで、稼働率と利益を最大化しています。AIを活用したシステムにより、リアルタイムでの価格変動と業務負荷軽減を実現しています。
航空業界:需要予測に基づく価格変動戦略
航空業界も先駆者であり、航空券は搭乗日までの日数に応じて価格が変動します。早期予約割引などで「消滅性在庫」である座席を効率的に販売し、収益を最大化しています。ゴルフ場も早期予約割引や残枠数に応じた価格調整で、売上確保と稼働率最大化が期待できます。
テーマパーク・スポーツ業界:混雑緩和と顧客体験の向上
テーマパークやスポーツ業界では、ダイナミックプライシングが混雑緩和や顧客体験向上にも活用されています。ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)やJリーグは、時期や曜日、需要に応じて価格を変動させ、収益最適化と来場者の平準化、顧客満足度向上を実現しています。ゴルフ場でも、ピーク時の価格設定で混雑を緩和し、快適なプレー体験を提供することが可能です。
ゴルフ場特有の価格変動要因
ゴルフ業界でも価格変動は一般的ですが、その適用範囲にはまだ余地があります。ゴルフ場では、土日祝日の料金が平日より高くなるほか、早朝・薄暮は昼間より安く設定されるなど、すでに様々な要因で料金が変動しています。季節(春・秋がピーク、夏・冬は割引)やプレースタイル、立地なども影響します。顧客もこれらの変動に慣れており、既存の変動をリアルタイムデータと予測分析で最適化することが課題です。
収益最大化と稼働率平準化
ダイナミックプライシングの最大のメリットは収益の最大化です。ゴルフ場経営ではティータイムの稼働率と客単価のバランスが鍵です。船井総研の事例では、ダイナミックプライシング導入によりプレー単価が前年比16%向上し、月間売上が約488万円増加した事例も報告されています。
ゴルフ場がダイナミックプライシングに着手するための具体的なステップ
ダイナミックプライシングの導入は、経営戦略、データ活用、顧客コミュニケーションを統合した包括的なプロジェクトです。
ステップ1:目的の明確化と現状課題の把握
まず、利益最大化、稼働率向上、混雑緩和など、具体的な目的を設定します。次に、現在の料金体系の課題、過去の予約・売上データ、顧客購買パターン、競合情報などを詳細に洗い出し、客観的に現状を把握します。
ステップ2:データ収集と分析基盤の構築
効果最大化には正確で豊富なデータが不可欠です。過去の販売履歴、競合価格、天候、季節変動、顧客属性などのデータを収集し、AIや機械学習を活用して需要予測と価格算出を自動化する基盤を構築します。
ステップ3:システム導入とテスト
データ分析に基づく価格設定の自動化には、AIを活用したダイナミックプライシングシステムの導入が不可欠です。三和コンピュータの「RoundMaster」やキーエンスの「KI」、船井総研デジタル、株式会社空(MagicPrice)などがソリューションを提供していますが、最近はChatGPTやClaudeAIなどのツールの技術進歩が著しいため、これを活用するのが初手としては良いでしょう。
ステップ4:価格設定と顧客コミュニケーション戦略
ダイナミックプライシングの成功には、顧客への丁寧な対応が不可欠です。AIが推奨する最適な価格を基に、需要に応じて価格を柔軟に調整します。導入時は、価格変動の理由や範囲を事前に分かりやすく説明し、透明性を確保することが重要です。早期予約割引など顧客にとって魅力的なオファーを提示し、顧客メリットを訴求することで、ロイヤルティ向上に繋げます。
導入成功のためのポイントと留意点
ダイナミックプライシングは継続的な取り組みとリスク対応が鍵です。需要予測は常に不確実性を伴うため、市場変動や競合戦略に対応するため、正確なデータ収集と分析を継続し、予測モデルの精度を向上させる改善が不可欠です。
ただし、価格変動が頻繁な場合、顧客は不透明さや不公平さを感じ、不信感を抱くリスクがあります。このリスクを最小限に抑えるには、価格変動の理由を明確に説明し、顧客メリットを強調することが重要です。
ダイナミックプライシング導入には以前は高度な専門知識が求められましたが、現在はAIツールの技術進歩が著しいため、それを基にロジック構築を行ってみて検証してみてはいかがでしょうか。
まとめ
ダイナミックプライシングは、需要と供給に応じて価格を柔軟に調整し、収益を最適化する戦略であり、ゴルフ場経営におけるDX推進の重要な柱です。これは、稼働率と客単価のバランスを最適化し、ティータイム単価を最大化する高度な経営手法です。
導入成功の鍵は、明確な目的設定、質の高いデータ収集とAIによる分析、適切なシステム導入、顧客への丁寧なコミュニケーションと信頼関係の構築に集約されます。これらの要素を戦略的に組み合わせ、段階的な導入と継続的な改善を図ることが、ゴルフ業界の持続可能な成長を実現する鍵となるでしょう。
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