『月刊ゴルフマネジメント』2025年5月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第11回を掲載いただきました。
今回は「若年層をゴルフに取り込んだTGLの現場で体感したイノベーション」というタイトルで、2025年1月21日(火)に行われた新リーグ「TGL」のNew York Golf ClubとAtlanta Drive GCの対戦を実際に現地で観戦し、その模様をレポートとしてまとめさせていただきましたので、ご一読いただけますと幸いです。

本文
1月21日(火)に行われた新リーグ「TGL」のNew York Golf ClubとAtlanta Drive GCの対戦を観戦してきましたので、その模様をお伝えします。
アメリカゴルフの新リーグ「TGL」とは?
TGL presented by SoFiは、タイガー・ウッズとローリー・マキロイが立ち上げた、PGAツアーのトッププレーヤーによるチーム制の新しいゴルフリーグです。最先端テクノロジーを駆使し、プライムタイムに2時間の白熱した試合を繰り広げます。全6チームが、フロリダ州パームビーチ州立大学キャンパス内に特別に建設されたSoFi Centerで対戦。全試合はESPNで放送され、すべてのショットがライブで中継され、選手全員にマイクが装着されるため、仲間内での会話や味方やライバルのショットに対する掛け合いも楽しむことができ、ゴルフファンにとって新しい観戦体験を提供しています。
TGLの特筆すべき点は、PGAツアーのトップ選手24人が各4人ずつの6チームに分かれ、個人競技であるゴルフをチーム制にし、MLBやNFL、NBAのように地域に根ざしたフランチャイズ制を採用している点です。さらに、全米中のセレブを巻き込んでいることも大きな特徴です。
最新テクノロジーの結晶であるスタジアム「SoFi Center」
SoFi Centerはシミュレーションゴルフの概念を遥かに超えた最新テクノロジーの結晶でした。
競技エリアはスクリーンゾーンとグリーンゾーンに分かれており、その周囲を1500席の観客席が囲んでいます。選手はまず巨大スクリーンに向かってティーショットを放ちますが、そのスクリーンのサイズは圧巻の一言。幅約20メートル、高さ約14メートルで、スタジアムの天井近くまで達しています。ショットの精度を正確にバーチャル環境に反映させるため、18台のFULL SWINGのシミュレーターと8台の光学カメラが使用されています。
50ヤード以内のショットでは、ターンテーブル上に設置されたグリーンエリアでプレー。このエリアにはバンカーも設置され、グリーンには7つのカップオプションがあり、輪郭は無限に変化します。各ホールのグリーンエリアでのプレーが終わると、運営スタッフが次ホールのカップ位置にフラッグを立て直し、ターンテーブル上でグリーンエリアが回転し、次のホールのセッティングが完了します。もちろんバンカーショットがあった場合はレーキでの整備等もホール間のインターバルで実施されます。
スピーディーなゲーム展開
ゲーム展開はスピーディで、選手の1打の持ち時間はショットクロックで表示される40秒。バスケットボールだと24秒ルールとして採用されている同様のルールがゴルフでも採用されています。その影響もあって、午後7時にスタートした試合は9時前に終了しました。
残念だったのは、今回の試合では「Hammer」の場面が見られなかったこと。これはホールのポイントを倍にできるシステムで、試合の流れを変える重要な要素です。会場の盛り上がりを期待していましたが、Atlanta Drive GCの一方的な展開になったためか、Justin ThomasがHammerを使うためのタオルを投げず、その機会がありませんでした。
リーグ開幕からまだ3試合目ということもあり、選手たちも観客との距離が非常に近い環境でプレー。臨場感あふれるショーとしての面白さは十分に感じられました。
シーズン中もトライアンドエラーで進化し続ける
このような新しいインドアゴルフリーグという試みをまず実行に移すというスタンスが何よりも素晴らしいと感じましたし、さらに大会をより良くするための改善が迅速に実施されており、帰国後もTGLのリーグとしての価値が高まっていることを実感しています。
例えば、「Hammer」の利用が少なく盛り上がりに欠けるという問題に対しては、ルール変更で対応しました。これまでは両チームを通じてハンマー使用権が1つしかなく、リードしているチームが消極的になりやすいという課題がありました。
新ルールでは各チームが3つのハンマーを所持してスタート。1ホールにつき1回のみ使用可能ですが、両チームが同じホールでハンマーを宣言することもでき、その場合はポイントが3倍(3ポイント)となり、より白熱した展開が期待できます。
放送面でも革新的な取り組みが見られます。直近の視聴者はローテーショングリーン上のフラッグが少し異なることに気づいたかもしれませんが、これはSmartPinカメラが旗竿に組み込まれているためです。このカメラは、ボールがホールに向かう様子を今までにない角度から捉え、放送に大きな付加価値をもたらしています。
各ホールの設計もジャック・ニクラウスのゴルフコース設計チームが担当しており、インドアゴルフでありながらリアルなゴルフコースのエッセンスを取り込み、伝統を重んじつつ新しいイノベーションを起こそうというスタンスが感じられました。
若年層へのアピールに成功したTGL
プライムタイムに試合が行われ、派手なライト演出はアメリカのプロレスを手掛ける会社が担当し、カメラは80台が設置され、様々な角度からスーパープレーが配信される。
普段のPGAでは実現できない新しい取り組みの結果、大会を中継するESPNでは18~49歳の若年層の視聴者がバスケットボールのNBAと並ぶ42%を記録したとのこと。
今後は開催エリアや規模の拡大を見据えており、伝統的な競技に新たな風を吹き込む革新の現場を体感することができました。
コメント