2025年2月1日発行の『月刊ゴルフマネジメント』2025年1月号に代表理事である木下裕介の「ゴルフ場のデジタル革新」の連載の第8回が掲載されました。
今回は「レストラン運営のDXについて考える」というタイトルで、近年、喫緊の課題となっているゴルフ場のレストランにおけるシェフや調理スタッフ、配膳スタッフの人材不足についてのDX化についてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

本文
近年、ゴルフ場業界では人材不足が喫緊の課題となっています。ゴルフ場のレストランにおいても、シェフや調理スタッフ、配膳スタッフの人材不足が顕著です。人材不足による業務負荷の増加や、サービス品質の低下が懸念される中、ゴルフ場のレストラン運営においてもDX化が求められています。
デジタルオーダーシステムの導入
ゴルフ場のレストランは、プレー前の朝食やハーフターンでの昼食など、特定時間帯に利用が集中する特徴があります。特にハーフターンでは、多くのゴルファーが短時間で休憩と食事を済ませる必要があるため、注文の受付から提供までの効率化が求められてきました。この時間帯には、多くのゴルファーが一斉にレストランを利用するため、スタッフの負担が特に大きくなります。人手不足が深刻化する中、この集中時の対応が大きな課題となっていましたが、この状況を打開するため、東京システムハウス株式会社のレストランマルチオーダーシステムをはじめとしたデジタルオーダーシステムの導入が様々なゴルフ場で進んでいます。デジタルオーダーシステムとは、利用者がスタッフを呼んでオーダーせずとも、テーブルに設置されているタブレット端末により利用者自身がオーダー可能なファミリーレストランなどで普及している仕組みです。
一般的な飲食店と異なり、ゴルフ場では年配の利用客が多いことから当初は導入に慎重な声も聞かれましたが、実際の導入事例では想像よりも利用者の抵抗が少なく、予想以上の好反応が得られています。これは、近年のデジタル技術の普及により、年配層のデジタルリテラシーが向上していることも一因と考えられます。多くのゴルフ場では、まずは試験的な導入からスタートし、利用者の反応を見ながら段階的に展開を進めているケースが多く見られます。
実績データによると、デジタルオーダーシステムを導入したゴルフ場では、客単価の大幅な向上が確認されています。特に「大盛」などのオプション選択が容易になったことで追加注文が増加し、サイドメニューのレコメンド機能により、付加的な注文が促進されています。さらに、システムが適切なタイミングでおすすめメニューを提案することで、これまで見過ごされていた商品の注文も増加傾向にあります。また、写真付きメニューの効果で、高単価商品の注文も増加傾向にあるとのことです。これは、写真によって料理の見た目や量感が事前に把握できることで、注文への不安が軽減されているためと考えられます。
当初懸念されていた高齢ゴルファーの抵抗感は、実際には大きな問題とはならず、操作画面の直感的な設計や写真付きメニューによる分かりやすさが功を奏し、むしろ好意的な反応が多く見られています。特に、文字の大きさや色使い、ボタンの配置などが高齢者にも使いやすいよう工夫されていることが、高評価につながっています。スマートフォンやタブレットの普及により、デジタル機器への抵抗感が全体的に低下していることも、スムーズな導入の要因の一つとして挙げられます。また、従来型オーダーとの併用による段階的な導入や、スタッフによるきめ細かなサポートも、スムーズな導入に貢献しています。
オーダーデータの分析活用
デジタルオーダーシステムの価値は、単なる省力化だけでなく、収集されたデータの活用にもあります。基幹システムとの連携により、顧客属性別の分析や売れ筋商品の把握、季節別の需要傾向など、詳細な分析が可能となります。例えば、年齢層や性別、プレー頻度といった顧客属性と、注文内容や利用時間帯との相関を分析することで、より効果的なメニュー構成や価格設定が可能となります。また、天候や気温といった外部要因と注文傾向の関係性も把握できるため、より精緻なメニュー提案が可能になります。これらのデータは、新メニューの開発やターゲット層に応じたプロモーション、効果的な価格設定などに活用することができます。
特筆すべきは、システム導入により得られたデータの分析結果が、メニュー開発やマーケティング戦略の立案に大きく貢献している点です。従来は勘と経験に頼りがちだった顧客ニーズの把握が、データに基づいて行えるようになりました。例えば、特定の年齢層に人気のメニューや、天候による注文傾向の変化など、これまで把握が困難だった傾向も明確に分析できるようになっています。どのような顧客がどのようなオーダーをしているかを詳細に分析することで、効果的なオプションやサイドメニューのレコメンド施策を展開することが可能となっています。
今後の展開としては、予約システムとの連携強化やAIを活用した需要予測、モバイルアプリとの統合など、さらなるシステムの高度化が期待されます。予約情報とオーダー履歴を組み合わせることで、より精度の高い需要予測が可能となり、食材の在庫管理や仕入れの最適化にもつながるでしょう。また、AIによる分析を活用することで、個々の顧客の好みに合わせたパーソナライズされたメニュー提案なども可能になると考えられます。さらに、精緻な顧客分析や効率的な在庫管理、収益最適化といったデータ活用の深化も進むと考えられます。
導入に際しては、試験導入期間の設定やスタッフ教育の充実、顧客への丁寧な説明など、段階的なアプローチが重要となります。特にスタッフ教育については、システムの操作方法だけでなく、データの活用方法や顧客サポートのポイントなども含めた総合的な研修が必要です。また、収集したデータの解析方法や活用方法についても、定期的な研修や勉強会を実施することで、システムの効果を最大限に引き出すことができます。さらに、基幹システムとの連携やデータ分析環境の整備、セキュリティ対策といった技術面での準備も欠かせません。
さいごに
ゴルフ場のレストランのデジタル化は、人手不足対策としての省力化だけでなく、売上向上や顧客満足度の改善にも大きく貢献する可能性を秘めています。デジタルオーダーシステムの導入により、スタッフの業務負担が軽減されるだけでなく、データに基づいた効果的なメニュー提案や価格設定が可能となり、結果として収益性の向上にもつながっています。重要なのは、デジタル技術の導入を単なる省力化の手段としてではなく、サービス価値向上のための戦略的な投資として位置付けることです。システム導入による業務効率化で生まれた時間を、接客サービスの質の向上に振り向けることで、より付加価値の高いサービス提供が可能となるでしょう。今後、さらなる技術革新とデータ活用の深化により、ゴルフ場のレストランの新たな可能性が広がっていくことが期待されます。
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