『月刊ゴルフマネジメント』2025年9月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第15回を掲載いただきました。
今回は「他のスポーツから学ぶゴルフ観戦体験のDXについて」というタイトルで、先日視察した富士スピードウェイで開催されたスーパーフォーミュラから得られたゴルフトーナメント運営に関する示唆をまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

本文
先日、富士スピードウェイで開催されたスーパーフォーミュラで、私はモータースポーツの観戦体験の進化を目の当たりにしていました。コースサイドのスタンドに響く爆音、ドライバーたちの緊迫した無線交信、そしてリアルタイムで表示される車体データ。そこには、従来のスポーツ観戦の概念を覆すテクノロジーの活用がありました。
これまでゴルフ業界においてもZOZOチャンピオンシップでのSHOTLINKシステムの導入や、TGLでのシミュレーター活用による新リーグの立ち上げなど、様々なデジタル革新を見てきましたが、今回は他スポーツから学ぶという視点で、ゴルフ観戦体験のさらなる可能性について考察していきたいと思います。
モータースポーツが示すファンエンゲージメントの未来
富士スピードウェイでの観戦体験は、まさに次世代のスポーツエンターテインメントの縮図でした。最も印象的だったのは、各ドライバーとピットクルーとの無線交信がリアルタイムで聴けるアプリです。レース中の緊迫した状況下で交わされる戦略的な会話、時にはドライバーの感情が込められた声まで、観客は聴くことができます。
この体験は、単なる情報提供を超えた「推し」への感情移入を促進するものでした。お気に入りのドライバーと同じ視点で同じ声を聴き、チーム戦略の舞台裏を知ることで、観戦者は単なる第三者から、チームの一員のような感覚を味わうことができます。ここにゴルフ観戦における重要なヒントがあると感じました。
さらに注目すべきは、車載カメラから配信されるドライバー視点の映像です。時速300キロを超える世界を、実際にドライバーが見ているアングルで体感できます。加えて、取得されたスピード、エンジン回転数、タイヤ温度などの詳細データが、画面上にリアルタイムで表示されます。これらの数値は単なる情報ではなく、レースの臨場感を数倍にも増幅させる要素として機能していました。

プロ野球界の革新的映像技術
スポーツ観戦体験の革新は、モータースポーツに限りません。日本のプロ野球界でも、近年画期的な技術導入が相次いでいます。特に注目すべきは、ボリュメトリックビデオシステムの導入です。このシステムは、スタジアム内に設置された複数のカメラで撮影した映像を解析し、3D空間内での選手の動きを立体的に再現する技術です。
従来の固定カメラによる中継では不可能だった、自由視点での映像配信が実現されています。視聴者は自分の見たい角度から試合を観戦でき、例えばピッチャーの投球フォームを真後ろから見たり、バッターボックスからの視点でボールの軌道を追ったりすることが可能になりました。この技術により、テレビの前にいながら、まるでスタジアムの任意の場所にいるかのような体験を得ることができます。
さらに興味深いのは、審判にウェアラブルカメラを装着する試みです。主審の視点から見るストライクゾーンの判定や、塁審から見るクロスプレーの瞬間など、これまで見ることのできなかった特別な視点が提供されています。これらの映像は、単なる娯楽提供を超えて、審判の判定に対する理解を深め、野球というスポーツへの洞察を与える効果も生んでいます。
ゴルフ観戦体験への応用可能性
これらの他スポーツでの先進事例を踏まえ、ゴルフ観戦体験にどのような革新をもたらすことができるでしょうか。まず最も直接的に応用可能なのは、選手とキャディの会話音声の配信です。実際に国内外のトーナメントの一部では既に実施されていますが、より積極的な導入が求められます。
ゴルフにおいてキャディとの対話は、戦略立案の核心部分です。風の読み方、ピンまでの正確な距離、グリーンの傾斜の分析など、プロの技術的な判断過程を聴くことで、観戦者はゴルフの奥深さをより深く理解できます。また、プレッシャーのかかる場面でのメンタル面でのやり取りは、選手の人間性を垣間見る貴重な機会となり、ファンとしての感情移入を促進します。もちろん、ゴルフに関わらない会話をキャディとする選手もいると思うのですが、そのような会話を聴くことができるのも、その選手の人間性を知ることができる良い機会になるでしょう。
技術的な側面では、選手の心拍数などのバイオメトリクスデータの活用も考えられます。特に最終日の優勝争いのような緊迫した場面で、選手の心拍数がリアルタイムで表示されれば、その緊張感を視聴者も共有することができます。また、ショット前のルーティンの時間測定や、歩行速度の変化なども、選手の心理状態を推測する興味深いデータとなるでしょう。
データドリブンな観戦体験の創出
これまでのSHOTLINKシステムの導入に加えて、さらに詳細なデータ収集と可視化が求められます。例えば、各選手のクラブ選択の傾向、同様のライからの成功率、過去の同ホールでのスコア履歴などを、リアルタイムで比較表示するシステムの構築が考えられます。
AI技術を活用すれば、現在のライと過去のデータを照合して、最適なクラブ選択や狙い所を予測することも可能でしょう。視聴者は、プロの実際の判断と理論上の最適解を比較しながら観戦でき、ゴルフの戦術的な面白さをより深く味わうことができます。
新しいゴルフ文化の創造に向けて
他のスポーツから学ぶべき点は、単なる技術導入にとどまりません。重要なのは、これらの革新が観戦者との感情的なつながりを深め、スポーツへの理解と愛着を向上させることです。ゴルフの場合、プレー時間の長さや静寂な環境という特性を活かして、他スポーツにはない独特の観戦体験を創出できる可能性があります。
例えば、各ホールでのプレーの合間に、そのホールの戦略的特徴や過去の名勝負の解説を、AR技術を使ってインタラクティブに提供することができますし、トーナメント全体により深い文脈を与えることができるでしょう。
今後、デジタル技術の進歩により、これらの革新的な観戦体験は確実に実現していくはずです。その過程で重要なのは、ゴルフという競技の本質的な魅力を損なうことなく、テクノロジーを効果的に活用することです。他スポーツでの成功事例を参考にしながら、ゴルフならではの独自性を活かした新しい観戦文化を創造していくことが、業界全体の使命となるでしょう。
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