『月刊ゴルフマネジメント』2025年12月号に代表理事である木下裕介の連載の第18回が掲載されました

『月刊ゴルフマネジメント』2025年12月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第18回を掲載いただきました。

今回は「データ駆動で未来を拓く:ゴルフ場のマーケティングにおけるDX」というタイトルで、日本のゴルフ場が誇るおもてなしの精神を代替するのではなく、むしろ強化し、持続的な成長を実現するための必須戦略であるマーケティングにおけるDXについてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

目次

本文

現代のゴルフ場経営は、ゴルファー人口の減少と高齢化、そして深刻な人手不足といった構造的な逆風に直面しています。レジャーが多様化する中で、従来の会員権や紙媒体に依存したマーケティング手法では、デジタルネイティブである若年層や女性といった新たな顧客層にリーチすることは極めて困難です。

この状況を打開する鍵が、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。DXとは、単に紙の台帳をExcelにするといった「デジタル化」ではなく、データとテクノロジーを用いてビジネスモデルや顧客体験そのものを根本から変革し、新たな価値を創造する経営戦略を指します。

ゴルフ場においては、QRコードや顔認証によるスマートチェックインなどでフロントの定型業務を自動化し、その生産性改善によって創出された時間で、スタッフがCRM(顧客関係管理)システムに蓄積された顧客データを基に、パーソナルなダイレクトメールやクーポンなどを含めた「おもてなし」に集中できるようになります。

DXは、日本のゴルフ場が誇るおもてなしの精神を代替するのではなく、むしろ強化し、持続的な成長を実現するための必須戦略なのです。

すべての起点となる「顧客データ基盤」の構築

あらゆるマーケティングDX施策の成否は、その土台となる「顧客データ基盤」の質にかかっています。多くのゴルフ場では予約、POS、会員情報などが個別のシステムで管理され「データのサイロ化」が起きており、顧客を統合的に理解する妨げとなっています。これでは、同一顧客が複数のデータとして登録され、来場されたお客様が実は過去に何度も来場している優良顧客である可能性を見逃してしまいます。

この解決策が、予約から顧客管理までを一元化する統合システムと、その中枢となるCRMの導入です。堅牢なデータ基盤は、誰が、いつ、どこから、いくら利用しているかといった顧客行動を可視化します。複数のグループコースを持つ一部の運営会社は、全施設のデータを多角的に分析し、デモグラフィック別の利用傾向やリードタイムまで把握しています。このようなデータ分析能力は、マーケティングをROIが不明確な「コスト」から、データに基づき費用対効果の高い施策を実行できる「戦略的資産」へと昇華させます。

新規顧客を獲得するデジタルマーケティング戦略

強固なデータ基盤が整ったら、次はその基盤を活用して新たな顧客を獲得します。

  • オウンドメディア(自社ウェブサイト、SEO/MEO):自社サイトは、ゴルフ場が唯一完全にコントロールできる「メディア」であり、情報発信のハブとなります。SEO(検索エンジン最適化)で「地域名(例:栃木県) ゴルフ場」といった検索結果の上位表示を目指すことはもちろん、特にGoogleマップでの表示を最適化するMEOは、地域顧客への最短ルートであり極めて重要です。正確な情報登録、魅力的な写真の投稿、口コミへの丁寧な返信が鍵となります。
  • SNSとWeb広告:Instagramでは、コースの美しい風景やレストランの料理写真を発信し、若年層や女性にアピールします。千葉県のブリストルヒルゴルフクラブは、Instagramの活用で女性客を増やし、女性限定コンペが定期開催される好循環を生み出しました。また、LINE公式アカウントでは、友だち登録した顧客に限定クーポンなどを直接配信し、ポータルサイトの手数料を回避しながらリピートを強力に促進できます。Web広告は、地域や年齢でターゲットを絞り、短期的な集客に即効性を発揮します。
  • 先進的戦術:楽天GORAが提供するコースのドローン情報など、3DやVR技術を活用したバーチャルツアーは、遠隔地の顧客がオンライン上でリアルにコースを体験でき、予約の意思決定を後押しします。また、プロによるレッスン動画やコース攻略ガイドといった価値ある情報を発信するコンテンツマーケティングは、ゴルフ場の専門性を高め、顧客との長期的な信頼関係を構築します。

自社の課題と目的に合わせ、これらのチャネルを戦略的に選択・集中させることが成功の第一歩となります。

既存顧客をファンに変えるLTV最大化戦略

ゴルフ場の持続的な収益成長の鍵は、既存顧客との関係を深化させ、生涯顧客価値(LTV)を最大化することにあります。

  • パーソナライゼーション:CRMに蓄積されたデータを用いて、最終来場日・頻度・利用金額で顧客を格付けする「RFM分析」や、プレースタイルなどで顧客をグループ分け(セグメンテーション)します。その上で、マーケティングオートメーション(MA)を活用し、「3ヶ月来場のないお客様に再来場を促すクーポンを自動配信する」といった個別のシナリオを実行します。これにより、顧客一人ひとりの心に響くアプローチが実現します。
  • ロイヤルティプログラム:顧客の忠誠心を育む上で極めて有効です。PGMのゴルフ場では、スマートチェックインや公式サイトからの予約、アンケート回答など多様なアクションにポイントを付与。さらに、前年の利用実績に応じて「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」といったステータスを設け、優良顧客ほどポイント付与率が高くなる仕組みで、顧客の継続利用意欲を刺激しています。

これらの施策は、楽天GORAやGDOといった大手予約ポータルサイトへの依存から脱却し、手数料のかからない自社予約(D2C)へと顧客を誘導するための強力な武器ともなります。一度来場した顧客を自社のプログラムに登録してもらい、直接的な関係を築くことが収益性改善に直結します。

導入成功のためのポイントとまとめ

DXを成功させるには、「戦略が先、テクノロジーは後」という原則が重要です。まず自社のビジネス目標(例:オンライン予約比率の向上)を明確にし、それを実現するツールを選びましょう。また、DXは全社的な取り組みであり、スタッフへの丁寧なトレーニングと、ITに不慣れなお客様へのサポート体制が不可欠です。泉ヶ丘カントリークラブの事例では、メンバーアプリ導入時にスタッフの方が対面でサポートデスクを設けたことが導入推進のきっかけとなりました。

一度にすべてを変えようとせず、まずはMEO対策などから小さく始め、効果を測定しながら改善を繰り返す「PDCAサイクル」を回し続けることが、DXを絵に描いた餅で終わらせないための唯一の道です。

結論として、これからのゴルフ場は、美しいコースを維持するだけでなく、データに基づいた顧客への深い理解を融合させ、一人ひとりに最適化された体験を提供することが不可欠です。DXへの挑戦こそが、お客様との新しい絆を築き、ゴルフ場の輝かしい未来を創造するでしょう。

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