『月刊ゴルフマネジメント』2026年1月号に代表理事である木下裕介の連載の第19回が掲載されました

『月刊ゴルフマネジメント』2026年1月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第19回を掲載いただきました。

今回は「「真の優良顧客」を可視化する:ゴルフ場のCRMにおけるDX」というタイトルで、ゴルフ場のCRM(顧客関係管理)におけるDXが解決すべき、構造的かつ喫緊の課題についてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

目次

本文

メンバーシップコース(会員制ゴルフ場)の経営において、その根幹を支えているのは言うまでもなく「メンバー(会員)」です。彼らは単なる施設利用者ではなく、クラブの運営を財政面・精神面の両方で支え、クラブの目指す姿であるビジョンを共創するパートナーでもあります。 しかし、多くのゴルフ場経営において、経営に多大な貢献をしている「真の優良メンバー」に対して、十分な還元や特別なおもてなしができているかというと、自信を持って肯定できるゴルフ場は極めて少ないのではないでしょうか。

ここに、ゴルフ場のCRM(顧客関係管理)におけるDXが解決すべき、構造的かつ喫緊の課題があります。従来の「勘と経験」に頼ったドンブリ勘定の管理から脱却し、DXによって「誰が、どれだけゴルフ場の売上に貢献しているか」をデジタルデータとして精緻に可視化すること。これこそが、シュリンクする市場の中で、メンバーのロイヤリティを高め、持続可能なクラブ運営を実現するための第一歩となります。

「形式的な平等」と「データのサイロ化」が招く機会損失

なぜ、これまで売上貢献度に応じた適切な還元ができていなかったのでしょうか。そこには大きく二つの根深い要因が存在します。

一つ目は、日本のゴルフ場運営に深く根付く「メンバーは皆、平等である」という固定観念です。もちろん、会員としての権利は平等であるべきです。しかし、年に一度しか来場しないメンバーと、毎月多くの友人を同伴し、コンペを主催し、レストランやプロショップでも高額を利用するメンバーを、サービス面で全く画一的に扱うことは正しいと言えるでしょうか? 経営的視点で見れば、それは「形式的な平等」に過ぎず、真の公平性(フェアネス)を欠いていると言わざるを得ません。貢献度の高いメンバーに対する還元不足は、「これだけ利用しているのに、恩恵がない」という不満を生み、彼らのロイヤリティ低下を招きます。最悪の場合、他コースへの流出や休眠化へと繋がり、経営にとって痛恨の機会損失となるのです。

二つ目は、そもそも「誰がどれだけ貢献しているか」を把握するためのCRM基盤(人材とデータ)の欠如です。多くのゴルフ場では、会員台帳、予約システム、レストランのPOS、ショップの売上データがそれぞれ独立しており、連携されていなかったり(データのサイロ化)、そのデータを分析するスキルを持った人材リソースがないのが現状です。 そのため、「Aさんは来場回数こそ少ないが、ショップでの購買額が非常に高い」「Bさんはプレーフィは安価だが、必ず3名のビジターを連れてくる」といった多面的な貢献度が見えなくなっています。これでは、戦略的な優遇措置を行いたくても、その対象者を正確に選定することすら不可能です。DXの本質は、こうしたバラバラのデータを統合し、経営判断に使える「生きた情報」に変えることにあります。

売上貢献の可視化がもたらす「真にフェア」なクラブライフ

DXによってCRMシステムを刷新し、メンバー個々のLTV(生涯顧客価値)や年間の総支出額をダッシュボード上で可視化できれば、ゴルフ場は「貢献度に基づいたフェアな評価」へと大きく舵を切ることができます。

具体的には、年間の利用額や来場回数、同伴者紹介数などをスコアリングし、その実績に応じてステータスを付与することが可能になります。 例えば、上位ステータスの会員には、週末の優先予約枠の提供、プレーフィの一部ポイント還元、あるいは支配人主催の特別ディナーへの招待といったインセンティブ設計が考えられます。これは単なる「値引き」ではありません。ゴルフ場を深く愛用し、経営を支えてくれるファンに対する正当なリスペクトの表明であり、エンゲージメントをさらに高めるための「投資」です。

実際に、先進的なゴルフ場では、こうしたデータに基づいた大胆な制度改革がすでに始まっています。国内外のいくつかのゴルフ場 千葉県のブリック&ウッドクラブが導入しているミニマムユースや、千葉県のThe Saintnine Tokyo、そして群馬県のTHE CLUB golf villageが導入しているデポジット制の年会費制度などは、その先駆的な好例と言えるでしょう。

データが可能にする次世代の会員制度:ミニマムユースとデポジット制

これらのゴルフ場では、従来の画一的な年会費制度を見直し、DXとデータを背景にした新たな収益モデルを導入しています。

その一つが「ミニマムユース(最低利用額)」の設定です。これは、年間で一定額以上の施設利用を会員に求めるものであり、厳密なデータ管理がなされていなければ運用不可能な仕組みです。 また、年会費を単なる「掛け捨ての維持コスト」とするのではなく、実際のプレー代や飲食代などに充当できる「デポジット制度(預かり金充当制度)」を採用するケースも増えています。

これらは、「ゴルフ場を利用すればするほど会員としてのメリット(還元)が最大化される」仕組みです。メンバーにとっては「使わないと損」という心理が働き、ゴルフ場にとっては「利用頻度向上」と「収益の安定化(キャッシュフローの改善)」を同時に実現できる、極めて合理的かつWin-Winのモデルです。 しかし、このモデルを成立させるためには、会員一人ひとりの残高や利用履歴をリアルタイムで正確にトラッキングできるデジタル基盤が不可欠です。DXによる裏付けがあって初めて、こうした納得感のある制度設計が実現するのです。

DXは「おもてなし」の解像度を上げるためのレンズ

これからのゴルフ場経営において、DXは単なる業務効率化や省人化のためだけのツールではなく、より良いメンバーシップを実現するための合理的な戦略手法です。それは、数千人いるメンバーの中から、本当に大切にすべき「ロイヤルカスタマー」を見つけ出し、その貢献に報いるための「高解像度なレンズ」の役割を果たします。

「平等」という言葉に縛られて、すべての会員に薄く広くサービスをする時代は終わったのかもしれません。データを持って「公正(フェア)」な関係を築き、貢献してくれる会員にエコシステム全体で還元すること。 CRMにおけるDXの推進は、メンバーとゴルフ場の信頼関係をより強固なものへと昇華させ、次世代の豊かなメンバーのクラブライフを創造する鍵となるでしょう。

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