『月刊ゴルフマネジメント』2026年3月号に代表理事である木下裕介の連載の第21回が掲載されました

『月刊ゴルフマネジメント』2026年3月号に私が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第21回を掲載いただきました。

今回は、「エネルギー・レジリエンス(Energy Resilience)」を武器に、コスト増を「収益の機会」へと変貌させている最前線の事例を深掘りしておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

目次

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2026年、エネルギー価格の止まらない高騰は、日本のゴルフ場経営において、経営努力で吸収できる範囲を超え、営業利益を直接的に侵食する喫緊の課題となっています。これまで電気や燃料は、蛇口をひねれば出てくる「必要経費」として考えられてきました。しかし、世界基準の経営において、エネルギーは今、データによって制御・最適化可能な「戦略的資産」へとその定義を変えています。

そこで今、注目されている概念が「エネルギー・レジリエンス(Energy Resilience)」です。これは、外部からのエネルギー供給の遮断や価格高騰といった衝撃に対し、データとテクノロジーを駆使して「被害を最小限に抑え、自律的に運営を継続・復元する力」を指します。今回は、このレジリエンスを武器に、コスト増を「収益の機会」へと変貌させている最前線の事例を深掘りします。

「水」と「電気」の相関を解く:セントーサゴルフクラブの挑戦

世界で先進的なサステナブル経営を実践するシンガポールの「セントーサゴルフクラブ」は、エネルギー・レジリエンスの構築において先駆的なモデルを示しています。彼らが着手したのは、コース内で最大の電力を消費する「灌漑ポンプ」の徹底的なデジタル化でした。

従来の灌漑は、キーパーの経験に基づき「均一に」散水されるのが常識でした。しかし、セントーサゴルフクラブでは、コース内に埋め込まれた数千のIoT土壌センサーが、水分量や塩分濃度をリアルタイムで監視しています。このデータはAI管理システムと連動し、「蒸散量(植物から失われる水分量)」を予測して、ピンポイントで必要な場所にのみ散水を行います。特筆すべきは、このシステムが電力市場のリアルタイム価格と連動している点です。電力料金が最も高騰する時間帯を避け、最も安価な時間帯に、最も効率的な水圧でポンプを稼働させる。この「水とエネルギーの同時最適化」により、同クラブは水使用量を40%削減すると同時に、ポンプに関わる電気代を劇的に圧縮することに成功しました。

「足元の無駄」を科学する:国内に見る浄化槽の省エネDX

一方で、レジリエンスの構築には、最先端の投資だけでなく「既存設備の運用最適化」という視点も欠かせません。その好例が、「浄化槽のエネルギー最適化」です。

ゴルフ場において、24時間365日稼働し続ける浄化槽のブロワー(送風機)は、実は施設全体の電気代において「隠れた大口消費源」です。多くのゴルフ場では、最大負荷を想定した過剰なエアレーション(曝気)が常時行われていますが、最新の省エネDXではここに「インバーター制御」と「タイマー運用」を導入します。来場者数や厨房の稼働状況といったデータに基づき、負荷の低い夜間や平日の送風量を最適化することで、処理能力を維持したままブロワーの消費電力を30〜50%削減できる事例が報告されています。これは、大掛かりな設備更新をせずとも、データの活用次第で「固定費を変動費化」できることを示唆しています。華やかなコース管理の裏側にある「見えない設備」の最適化こそ、レジリエンスを底上げする着実な一歩なのです。

データが導く「エネルギー・レジリエンス」の3つの本質

DXによって構築されるエネルギー・レジリエンスは、以下の3つの多層的な「力」によって構成されます。

第一に、価格変動に振り回されない「適応力」です。これは単なる節電ではなく、AIによる需要予測に基づいた「ピークシフト」を指します。電力単価が高い時間帯の消費を物理的に抑え、安価な時間帯へシフトさせる動的な制御は、データによる裏付けがあって初めて可能になります。

第二に、外部への依存を極限まで減らす「自給力」です。ここで主役となるのが、最新の電動カートを「走る蓄電池」として活用するV2G(Vehicle to Grid)技術です。日中に太陽光パネルで発電した余剰電力をカートに蓄え、夕方以降の建物電力がピークに達する時間帯にクラブハウスへ供給する。これにより、外部のエネルギー市場から自社を「切り離す(デカップリング)」ことが可能になります。

第三に、非常時でも運営を止めない「回復力」です。台風や地震による停電時でも、カートのバッテリーから電力を供給し、予約サーバーや最低限の照明、あるいはコースの命である散水ポンプを稼働させ続ける。このBCP(事業継続計画)としての側面も、レジリエンスの重要な構成要素です。

「予測」が空調の無駄を削る:CRM連動型BEMS

クラブハウスのエネルギーロスを最小化する鍵は、予約システム(CRM)と建物管理システム(BEMS)の「対話」にあります。「空調の設定温度を一律に上げる」という精神論的な節電は、顧客満足度の低下を招くだけです。DXを実践するコースでは、CRMから得られる「何時に、どのエリアに、何人のゲストが滞在するか」という予約データをBEMSにフィードバックし、エリア別の動的制御を行います。

人がいないロッカールームの通電を遮断し、来場者が集中する2時間前からピンポイントで予冷を行う。この「需要予測に基づいたエネルギー供給」こそが、ゲストの快適性を損なわずにコストを削る、データ経営時代のスマートな「おもてなし」の形です。

データは「自律した経営」を創り出す

日本のゴルフ場経営において、エネルギー対策は長らく「節電」という名の我慢の領域でした。しかし、海外の事例が証明しているのは、DXの本質とは「エネルギーの流れを可視化し、意思決定の自由度を取り戻すこと」に他ならないということです。

データを持たない経営にとって、エネルギー高騰は「抗えない天災」です。しかし、データによってエネルギー・レジリエンスを高めた経営にとって、それは「システムを最適化し、競合他社に対する圧倒的なコスト競争力を築くチャンス」へと変わります。 エネルギーを単なる消費から、制御可能なリソースへとアップデートできるか。その分岐点こそが、次世代のゴルフ場経営の成否を分けることになるでしょう。

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