『月刊ゴルフマネジメント』2026年9月号に木下が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第27回を掲載いただきました。
今回は、暑さ回避の先にある「タイムシフト経営」を実現するためのDXを深掘りします。

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酷暑が続く近年、「真昼のスタート枠から埋まらなくなった」という声を多くのゴルフ場から耳にするようになりました。本連載の7月号では、猛暑を「経営リスク」と捉えた熱中症対策のDXを取り上げ、その中で早朝スルーやナイター営業にも触れました。しかし、暑さを避けたプレースタイルへの需要の高まりは、単なる「避難策」として扱うにはもったいないほどの大きな可能性を秘めています。
考えてみれば、ゴルフ場の商品とは「時間」そのものです。コースという広大な資産を持ちながら、その稼働は日中の数時間に集中し、早朝と夕方以降はほとんど収益を生んでいません。ホテルが客室の稼働率を一室単位で管理するように、ゴルフ場も一日の時間をどれだけ売り物にできたかを問われる時代が来ています。暑さをきっかけに広がり始めた早朝・薄暮・ナイターのプレースタイルは、この眠っていた時間帯を「第2の営業時間」として収益化する、経営構造の転換点になり得るのです。今回は、暑さ回避の先にある「タイムシフト経営」を実現するためのDXを深掘りします。
「1日1回転」という思い込みを疑う
多くのゴルフ場の運営は、朝スタートして昼食を挟み、夕方までに18ホールを終えるという「1日1回転」のモデルを前提に組み立てられています。料金体系も人員配置もレストランの営業時間も、すべてこの前提の上に載っています。長年その形が最も効率的だったのは事実ですが、裏を返せば、その前提から外れる需要をすべて取りこぼしてきたということでもあります。
一方で、顧客の生活時間は多様化しました。夜明けとともにスタートして正午前に上がり、午後を家族との時間や仕事に充てたいビジネスパーソン。体力の消耗を避けて涼しい時間だけプレーしたいシニア層。練習場のナイター照明の下で育ち、仕事帰りに気軽にボールを打つ感覚で薄暮のハーフを楽しみたい若い世代。「フルセットで丸一日」という従来の商品だけでは、こうした人々の暮らしにゴルフの居場所をつくれません。早朝スルー、薄暮ハーフ、ナイターといった時間帯別の商品は、暑さ対策であると同時に、これまで取りこぼしていた客層への新しい提案なのです。実際に、早朝枠を目当てに遠方から訪れるゴルファーや、ナイターを「仕事終わりの新しい遊び」として発見する若年層など、時間帯を変えるだけで出会える顧客は確実に存在します。
タイムシフトを支える予約と運営のDX
時間帯別の商品を増やすと、当然ながら予約管理と現場運営は複雑になります。ここを人力で捌こうとすると現場が疲弊し、「手間がかかるわりに儲からない」という結論に陥りがちです。テクノロジーの出番はまさにここにあります。
まず予約です。早朝スルーや薄暮ハーフといった枠をWEB予約やアプリ上で独立した商品として販売し、空き状況に応じて直前の案内を会員向けアプリやLINE公式アカウントを通して届ける。電話の繋がらない早朝や夜間の時間帯こそ、24時間受け付けられるデジタルの予約導線が力を発揮します。
次に受付と精算です。スタッフが出勤する前の早朝スタートには、自動精算機でのセルフチェックインと事前決済の組み合わせが有効です。フロントに人を立たせるための早朝出勤を増やすことなくゲストを迎えられる体制がつくれます。時間帯を拡張しても人件費を比例して増やさないことが、タイムシフト経営を黒字にする絶対条件です。加えて、早朝スタート前の軽食や薄暮ハーフ後の一杯など、レストランや売店にも時間帯に合わせた商品を用意できれば、プレーフィ以外の客単価にも伸びしろが生まれます。
そしてもう一つ重要なのが、検証のためのデータです。時間帯ごとの稼働率と客単価を把握できていれば、「早朝枠は何時から何組設定するのが最適か」、「薄暮ハーフの価格は適正か」といった判断を、感覚ではなく数字で下せます。小さく始めて、データを見ながら枠を広げていく。この試行錯誤の速さこそ、デジタルで武装したゴルフ場の強みです。
夜を機械に任せ、夕方をゲストに開く
時間軸の拡張を阻んできたもう一つの壁が、コースメンテナンスです。夕方以降は翌日に向けた整備の時間であり、ゲストを入れられない。多くのゴルフ場でこれが長年の常識でした。
この常識を崩しつつあるのが芝刈機の無人化です。国内では一定条件下で完全無人運転が可能な芝刈機がゴルフ場向けに実用化され、夜間のうちに無人でフェアウェイを刈り上げる運用が始まっています。従来は作業のために入場を制限していた夕方の時間帯までゲストに開放できるようになり、薄暮枠の拡大がそのまま増収に繋がります。実際に導入するゴルフ場も現れており、遠い未来の話ではありません。しかも、日中の炎天下で行っていた作業を夜間に移せば、スタッフを危険な暑さから遠ざけ、涼しい早朝や屋内の業務へ再配置することにもなります。7月号で述べた従業員の安全確保と営業時間の拡大が、同じ一手で実現するのです。人手不足でコース管理の担い手確保に悩むゴルフ場にとって、機械が夜働き、人が昼の付加価値に集中する分業は、検討に値する選択肢と言えるでしょう。
「時間の再設計」は夏だけの話ではない
早朝や夜間の活用を、暑い季節だけの臨時対応と捉えるのはもったいないことです。秋の繁忙期には、限られた土日の枠を奪い合う需要を早朝スルーで受け止められます。日没の早い冬には、照明設備があれば夕方の営業時間を守れます。昼間に時間の自由が利くシニア層と、朝晩にしか時間のない現役世代。両者を異なる時間帯で受け止められれば、一日の需要の波はならされ、コース全体の稼働は底上げされます。時間帯別の稼働と収益をデータで把握し、季節ごとに商品構成を組み替えていく。それは一年を通じた経営の武器になります。
DXの本質とは、ゴルフ場の在庫である「時間」の解像度を上げ、これまで売り物にすらなっていなかった時間帯に値札をつけることだと言えます。暑さという逆風は、図らずも顧客の生活時間に寄り添った新しいゴルフの楽しみ方を教えてくれました。夜明けの静けさの中を歩く18ホールも、照明に浮かぶ幻想的なハーフも、真昼のゴルフとは別の魅力を持った立派な商品です。「1日1回転」の常識を書き換え、コースが持つ24時間という資産を使い切る。その設計図を描き始めたゴルフ場から、次の時代の収益構造を手にしていくのではないでしょうか。


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