『月刊ゴルフマネジメント』2026年8月号に木下が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第26回を掲載いただきました。
今回は、AIを「現状分析」から「施策の立案・実行」へとつなぐ具体的な道筋を深掘りします。

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多くのゴルフ場には、予約や会員名簿、来場履歴といった膨大なデータが日々蓄積されています。しかしその大半は「記録」されるだけで「活用」されないまま眠っているのが実情です。たとえば先月の来場者のうち、半年以上ご無沙汰だった会員が何人いたかを即座に答えられる方は少ないかもしれません。生成AIが連日話題となる一方で、「現場仕事にAIは縁遠い」と感じている経営者も少なくないでしょう。ところがAIが最も力を発揮するのは、まさにこうした「眠れるデータ」を価値へ変える場面に他なりません。今回は、AIを「現状分析」から「施策の立案・実行」へとつなぐ具体的な道筋を深掘りします。
「勘と経験」を「データ」で裏づける:AIによる現状分析
ゴルフ場経営の判断は、長らく支配人やベテランの勘と経験に支えられてきました。それは貴重な資産ですが、属人的で検証が難しいという弱点も抱えています。AIによる分析は、この勘を否定するのではなく、数値という共通言語で裏づけ、補強する道具です。
たとえば、弊社グループのゴルフ場を例にとってみましょう。一年分の来場データを読み込ませるだけで、顧客の輪郭が驚くほど鮮明に浮かび上がりました。来場者を「ビジター」と「会員」に分け、年代別に並べてみると、ビジターには会員よりも若い層が多く含まれている一方で、会員の年齢構成は年々上へ偏っていくという傾向が見て取れます(図1)。将来の会員基盤に関わる構造課題が、一枚の図から浮かび上がるのです。さらに会員を来場頻度でセグメントすると、ごく一部の常連が来場の大半を支えている実態や、年に数回しか訪れない層に活性化の余地が眠っていることも見えてきました(図2)。人の目では追いきれない膨大な行動履歴を、AIは短時間で整理し、いま手を打つべき相手を浮かび上がらせてくれるのです。
分析を「施策」に変える:AI時代のCRM実践
現状分析は、それ自体が目的ではありません。重要なのは、浮かび上がった示唆を顧客との関係づくり(CRM)へ落とし込み、来場という成果に結びつけることです。
先の分析が示した「若いビジター」には、平日会員やヤング会員といった段階的なプランで会員化を促す。「ライト層の会員」には、休眠へ移る前にフォローの案内を届ける。このように、層ごとに最適な一手が見えてきます。かつて顧客への案内といえば全員へ同じDMを送るのが常でしたが、AIを使えば相手の状況に応じた文面を一人ひとりに合わせて生成できます。膨大な手間ゆえに諦めていた「One to One」のコミュニケーションが、現実的なコストで実現するのです。施策は来場前にとどまりません。会員アプリで「いま参加できる競技」を関心に合わせて提示すればエントリーの取りこぼしが減らすこともできます。顧客との接点は、太く、そして長くなっていきます。
現場の「時間」を生むAI:オペレーションの省力化
AIの恩恵は、攻めの施策だけにとどまりません。人手不足の現場にとって、AIは「時間を生み出す」守りの武器でもあります。会議の議事録は録音さえあれば文字起こしと要点整理まで自動で仕上がり、定型的な返信文やホームページの告知、コンペの案内状の下書きもAIが担います。ベテランが時間をかけていた文章作業を確認と仕上げだけの工程に圧縮できれば、生まれた時間を接客やコース整備という「人にしかできない仕事」へ振り向けられます。少人数での運営を迫られるゴルフ場ほど、この効果は大きいと言えるでしょう。
AIは「人にしかできない仕事」を取り戻す道具
AI活用と聞くと、高額なシステムや専門人材を思い浮かべ、身構えてしまうかもしれません。しかし本当の第一歩は、驚くほど小さなものです。まずは手元にある一年分の予約データを書き出し、AIに「気づいたことを教えてほしい」と尋ねてみる。経営者やスタッフ自身がその手で触れてみることこそ、何よりの出発点です。
ゴルフ場経営の本質は、コースという自然と、人と人とのもてなしにあります。データ分析もCRMも省力化も、その本質を機械に明け渡すためではなく、煩雑な作業から人を解放し、ゴルファーと向き合う時間を取り戻すためにあります。眠れるデータを起こし、勘を確信に変え、現場に時間を生む。AIという道具を使いこなすゴルフ場と、そうでないゴルフ場の差は、これからの数年で確実に開いていくのではないでしょうか。なお、本稿でご紹介したような来場データの分析レポートにご関心のある方は、お気軽に弊社までお問い合わせください。

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