『月刊ゴルフマネジメント』2026年11月号に木下が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第29回を掲載いただきました。
今回は、コンピュータ特集として、「コース管理」、「接客・キャディ」、「集客・マーケティング」、「バックオフィス」という4つの現場で進むAI・ロボット活用の最前線を深掘りします。



本文
早朝のコースに出れば、朝露に濡れた芝を黙々と刈るスタッフの背中があり、フロントでは電話とチェックインが重なる中、笑顔を絶やさず対応するスタッフの姿があります。スタートホールでは、キャディがゲストの名前を確かめながら、その日のピン位置を頭の中で整理している。レストランの厨房では、スタート前の朝食ラッシュに向けて、仕込みが静かに進んでいる。ゴルフ場という産業は、突き詰めればどこまでも人の手によって支えられてきました。しかし、その「人の手」そのものが、今、確保できなくなりつつあります。
長年、こうした人手不足は「気合と根性で乗り切る」ものとして扱われてきました。求人を出し、シフトを組み替え、ベテランに頼り込む。それでも埋まらない穴は、現場の踏ん張りで塞いできたのです。一人が複数の役割を兼ね、休日返上で穴を埋め、繁忙期を歯を食いしばって越える。そうした現場の献身が、ゴルフ場の品質を守ってきたことは間違いありません。しかし、人口減少という構造的な変化の前では、精神論による穴埋めにはいずれ限界が訪れます。踏ん張れる人が一人辞めれば、残った人の負担がさらに増し、また一人が離れていく。この悪循環は、現場の努力だけでは断ち切れません。人手不足は、根性の問題ではなく、経営として設計し直すべき課題なのです。
幸い、この数年でAIとロボットは、コース管理から接客、マーケティング、経営管理まで、ゴルフ場運営のあらゆる現場に実装可能な段階まで進化しました。以前は、こうした技術は大規模な投資が可能な一部のコースだけのものというイメージがありました。
しかし今、その歩みは一部の大規模コースだけのものではなくなりつつあります。計算資源のコストが下がり、月額数万円という規模でも運用できるサービスが増えたことで、実装のハードルは中堅・小規模のゴルフ場にとっても、確実に低くなっているのです。「うちには早すぎる」、「うちは規模が小さいから」という理由で見送ってきた技術が、いつの間にか手の届く範囲に入っている。この変化に気づけるかどうかが、これからの数年の運営力を左右するのではないでしょうか。
もっとも、AIやロボットは魔法の杖ではありません。導入すれば自動的に人手不足が解消するわけではなく、どの業務を任せ、どの仕事を人に残すのかという設計があってはじめて効果を発揮します。だからこそ大切なのは、個別のツールの機能を追いかけることではなく、自コースの現場のどこに負荷が集中しているのかを見極め、そこに適した技術を選ぶという経営の視点です。
今回は、コンピュータ特集として、「コース管理」、「接客・キャディ」、「集客・マーケティング」、「バックオフィス」という4つの現場で進むAI・ロボット活用の最前線を深掘りします。
コース管理:自律走行ロボットが芝を守る
ゴルフ場経営における最大の固定費の一つが、コース管理のための人件費です。芝刈り、散水、病害虫の点検――これらは天候に左右されながら毎日欠かせない作業でありながら、担い手となるグリーンキーパーの高齢化と採用難は、多くのゴルフ場にとって既に切実な課題になっています。
この領域で最も実装が進んでいるのが、自律走行の芝刈りロボットです。米TORO社の「Greensmaster eTriFlex 3360」は、衛星測位技術を用いた自動走行システム「GeoLink Mow」を搭載し、フェアウェイの刈り込みを無人で行います。スウェーデンのHusqvarna社も、広大なエリア向けの「CEORA」と、傾斜地や複雑な地形向けの「Automower」という二つのラインナップで、コースの条件に応じた自律走行モアーを展開しています。オランダのKress社が発表した「Mission Mega RTKn 9」は、RTK方式のGPS誘導によって最大9エーカー(東京ドームグラウンド面積の数倍に相当します)を一台でカバーする能力を持ちます。さらに2026年1月に米ラスベガスで開催されたCES2026では、中国PANDAG Tech社がLiDAR(光を使った測距センサー)を搭載した商用自律モアー「G1」を発表するなど、この分野への新規参入も相次いでいます。
こうしてラインナップが揃ってきたことで、ゴルフ場の側にも「どれを選ぶか」という視点が求められるようになってきました。平坦な広いフェアウェイが中心のコースと、起伏や池が入り組んだ複雑な地形のコースとでは、求められる走行性能もセンサーの精度も異なります。海外メーカーの製品を性能だけで比較するのではなく、まずは自コースの地形上、どのホールのどの作業が最も人手を要しているかを洗い出した上で、そこに適した機種を絞り込むという順番が、投資判断を誤らないための近道になるでしょう。
芝刈りだけではありません。病害虫や雑草の診断という、これまでベテランの「目」に頼ってきた領域にもAIが入り始めています。日本農薬が提供するAIアプリ「レイミーのAI病害虫雑草診断」は、スマートフォンで撮影した芝の画像から病害虫や雑草の種類をAIが判定し、6社約400剤の中から適切な薬剤を提案する仕組みです。長年、こうした診断はベテランのグリーンキーパーが芝の色や生育の様子を見て経験的に判断してきた領域であり、その「目利き」は一朝一夕には若手に継承できないものでした。AIによる診断は、その経験値をデータとして底上げし、経験の浅いスタッフでも一定水準の判断ができるようにする、技能継承の手段としての意味合いも持ちます。
これらの技術に共通するのは、ベテランの「経験と勘」を否定するものではなく、日々の見回りという時間のかかる作業を代替し、その分の時間をより判断力の求められる仕事に振り向けられるようにする、という設計思想です。もちろん自律走行モアーやドローンの導入には相応の初期投資が伴い、コース形状によって向き不向きもあるため、まずは一部のフェアウェイや傾斜地など、人手のかかる箇所に絞って試験導入するといった、段階的な進め方が現実的でしょう。コースの「守り」を、限られた人数でどう持続可能にするか。自律走行ロボットは、その解の一つとして、既に実装段階に入っています。
接客・キャディ:AIとロボットが人手不足を埋める
キャディやフロントといった接客の現場は、ゴルフ場が最も「人の手」に依存してきた領域です。しかし、この分野でも人手不足を埋める技術の実装が進んでいます。
国内では、USEN-ALMEXが提供する追従型パーソナルキャディロボット「Hello Caddy」が、プレーヤーの後をついて回りながらバッグを運ぶことで、キャディ不足の現場を支えています。目を海外に向ければ同様の動きがあります。韓国・高陽(コヤン)市にある9ホールのゴルフ場では、2026年8月の1カ月間の試験運用を経て、同年9月にロボットキャディ40台が正式に導入されたと現地紙が報じています。40台という台数は、一つのコースにいるキャディの多くをロボットに置き換える規模であり、一部の限られたホールでの実証実験にとどまらない、運営全体を巻き込んだ導入だったことがうかがえます。試験運用という段階を踏んでから正式導入に踏み切る手順は、日本のゴルフ場が同様の設備投資を検討する際にも参考になる進め方でしょう。
一方、キャディそのものではなく「アドバイザー」としてAIを実装する動きもあります。米国発のArccos Caddieは、GPSとセンサーでプレーヤーのショットデータを蓄積し、コースと風向きに応じた最適なクラブ選択を提案するサブスクリプション型サービスで、2026年5月22日に正式ローンチしました。従来、こうしたアドバイスは経験豊富なキャディが担う専売特許でしたが、データに基づく提案がサブスクリプションという形で個人に開放されたことで、キャディの同伴なしでラウンドするプレーヤーにも「戦略の相談相手」を提供できるようになった点が特徴です。ソースネクストが手がける「BirdieTalk」は、帽子などに装着する生成AI対話型デバイスで、音声でのやり取りを通じてラウンド中にアドバイスを受けられる、日本発の製品として注目されています。
接客の省力化という観点では、隣接するホテル業界の動きも参考になります。名古屋プリンスホテル スカイタワーや、湯快リゾート片山津温泉のホテルでは、バイキング形式の配膳をロボットが担う事例が広がっており、料理の配膳や下膳といった反復移動をロボットに任せることで、スタッフが接客そのものに割ける時間を確保しています。海外に目を向ければヒルトンホテルがIBM Watsonを搭載したロボットコンシェルジュ「コニー」を導入した事例は、館内案内やチェックインに関わる定型的な問い合わせをロボットが担う先駆けとして、しばしば紹介されます。ゴルフ場のクラブハウスも、フロント対応やレストランサービスという点でホテルと近い構造を持っており、これらの事例は業種の壁を越えて参考にできる示唆に富んでいます。
キャディやフロントの仕事には、傾斜を読む、天候の変化に応じて声をかける、名前を覚えて迎えるといった、人にしかできない部分が確かに残ります。実際、キャディロボットの活用が進む現場でも、バッグの積み込みや繊細な状況判断は依然として人の手に委ねられているとの指摘は少なくありません。だからこそ、単純な移動や反復作業をロボットに委ね、人にしかできない「気配り」の部分に人員を集中させるという役割分担の設計が、これからのゴルフ場の接客現場に求められているのではないでしょうか。
集客・マーケティング:AI検索時代に「選ばれる」ための打ち手
コース管理と接客の省力化が「守り」のDXだとすれば、集客・マーケティングにおけるAI活用は「攻め」のDXです。しかもこの数年で、集客の前提そのものが大きく変わりつつあります。
一つは、検索という入り口の変化です。多くのゴルファーは、これまで「〇〇 ゴルフ場 予約」のような単一のキーワードで検索し、上位表示されたサイトから予約先を選んでいました。しかし生成AIによる検索(いわゆるAIO、AI最適化)が広がるにつれ、GoogleのAIは一つの検索語から関連する複数の疑問を自動的に展開して回答を組み立てる「クエリファンアウト」という仕組みで応答するようになっています。たとえば「〇〇ゴルフ場」と検索した利用者に対しても、AIは裏側で「料金はいくらか」、「初心者でも周りやすいか」、「アクセスは車と電車どちらが便利か」といった複数の関連質問を自動的に生成し、それぞれの答えを集めた上で一つの回答としてまとめ上げます。つまり、単一のキーワードに向けたページ作りだけでは不十分で、検討段階でゴルファーの頭に浮かぶ周辺の疑問まで網羅したコンテンツをあらかじめ用意しておかなければ、AIによる回答の中で選ばれる存在になれない時代に入っているのです。実際、不動産や歯科、税理士業といった他業種では、AI検索への最適化に取り組んだ結果、問い合わせが3倍に増えたとする事例も報告されています。ゴルフ場においても、料金体系やビジターの受け入れ条件、初心者向けのサポート体制といった「よくある疑問」への答えを、ウェブサイト上にあらかじめ言葉として用意しておくことが、これからの集客の土台になっていくはずです。
もう一つの変化は、AIによる接客・レコメンドの実装です。AIであれば蓄積された膨大な口コミや購買履歴から、一人ひとりの利用者に合ったコースやプランを、疲れることなく提案し続けられます。会員とのデジタル接点を整備すること自体が、レコメンドの土台になるデータを蓄積する意味を持つでしょう。
需要予測という観点では、天候や曜日、直近の予約状況、過去の実績データをリアルタイムに統合して価格を算出するダイナミックプライシングの仕組みも実用段階に入っています。ゴルフ場のティータイムという商品は、その日のうちに売り切らなければ価値がゼロになってしまう性質を持つため、需要が読みにくい平日や悪天候の予報が出た日ほど、価格を機動的に調整できる仕組みの効果は大きくなります。ただし、価格差が大きくなりすぎると景品表示法上の配慮や利用者への事前告知が必要になる点は、運用上の重要な留意点です。
弊社グループのゴルフ場「セブンハンドレッドクラブ」でも、蓄積してきた来場データや口コミデータをAIで分析し、CRM(顧客関係管理)施策につなげる取り組みを進めています。集客のためのAI活用は、広告費を増やすことではなく、既に持っているデータをどう読み解き、どう「選ばれる」ための情報として組み立て直すか、という編集作業に近いものになりつつあります。
バックオフィス:AIエージェントが担う経営管理
ここまで紹介してきたコース管理、接客、集客は、いずれもゴルファーの目に触れる「表」の現場です。しかし2026年に入り、最もAIの影響が大きい領域は、経営管理という「裏」の現場かもしれません。
背景にあるのは、AIを動かすための計算コスト(推論コスト)が、大幅に下落したという事実です。かつては高額な投資が必要だったAIの継続的な稼働が、今や中小企業でも手が届く水準になりました。実際、AI導入への投資額が10万円に満たない企業であっても、その100%が何らかの効果を実感しているという調査結果も出ています。かつては専門部署や外部ベンダーへの発注が前提だったAI活用が、月額数万円のサブスクリプションで試せる時代になったことは、専任の情報システム担当を置けないゴルフ場にとって、実装への心理的なハードルを大きく下げるものです。
ここで言う「AIエージェント」とは、一問一答のチャットボットとは異なり、指示された業務プロセスを自律的にこなし続ける存在を指します。ゴルフ場の現場に置き換えれば、翌週の天気予報と過去の来場実績を突き合わせてシフトの叩き台を作る、月末に基幹システムから出力される営業日報を集計してレポート化する、会員からの問い合わせメールの内容を分類して担当部署に振り分ける、といった作業がその対象になり得ます。いずれも「判断そのもの」は最終的に人が行うとしても、そこに至るまでの集計や下準備をAIエージェントが代行してくれれば、支配人や経理担当が定型業務に追われる時間は大きく圧縮されるはずです。国としても、中小企業のデジタル化・AI導入を後押しする補助金制度の拡充が進んでおり、投資へのハードルは今後さらに下がっていくと見込まれます。
コース管理や接客の省力化が「体力」を軽くするDXだとすれば、バックオフィスにおけるAIエージェントの活用は、支配人や経営者自身の「思考の時間」を取り戻すためのDXだと言えます。数字の集計に追われて経営判断に十分な時間を割けない、という悩みを抱えるゴルフ場ほど、この領域からの着手が効果的かもしれません。
DXの本質は「置き換え」ではなく「再配分」である
コース管理、接客・キャディ、集客・マーケティング、バックオフィス。各現場を見渡すと、いずれの技術にも共通する一つの設計思想が浮かび上がってきます。それは、人の仕事を奪うのではなく、単純作業や反復業務をAIとロボットに委ね、その分の時間と人員を、人にしかできない仕事へと「再配分」するという発想です。
キャディロボットがクラブ選びのサポートをするからこそ、キャディはゲストの表情に目を配る余裕が生まれます。AIエージェントが月次集計を終わらせるからこそ、支配人は来期の一手を考える時間を持てます。人手不足という制約は、見方を変えれば、何を人に残し、何を機械に委ねるかを再設計する機会でもあるのです。
全ての現場に共通する「再配分」の中身を整理してみましょう。コース管理では、芝刈りという長時間の単調な作業をロボットに委ね、グリーンキーパーは芝の状態を読み、コースの個性を磨く仕事に集中できます。接客では、荷物運びや配膳といった移動の負担を機械が担い、スタッフは会話や気配りといった「もてなし」に時間を使えます。集客では、定型的な情報発信や問い合わせへの一次対応をAIに任せ、ゴルフ場ならではの魅力を伝える企画づくりに力を注ぐことができます。そしてバックオフィスでは、集計や分類といった下準備をAIエージェントが担い、支配人が判断そのものに向き合えるようになります。いずれも「人が不要になる」のではなく、「人が向き合う対象が変わる」という点で共通しています。
ただし、再配分は機械を導入しただけでは実現しません。浮いた時間が別の雑務に埋もれてしまえば、DXの効果は数字にも現場の実感にも表れないからです。導入の前に「この作業が減ったら、その時間で何をするのか」をあらかじめ決めておくこと。そして、現場のスタッフに「自分の仕事がなくなる」という不安を抱かせず、「本来やりたかった仕事に時間を使えるようになる」という見通しを丁寧に共有することが欠かせません。現場の声を聞きながら小さく試し、うまくいった部分から広げていく進め方が、結果として最も早く定着へつながるのではないでしょうか。
「気合と根性」で乗り切ってきた現場に、AIとロボットという新しい担い手を迎え入れること。それは決して現場の努力を否定することではなく、これまで気合と根性でしか埋められなかった穴を技術で塞ぎ、浮いた力をゲストへのおもてなしという、ゴルフ場本来の価値に向け直すための一歩となるでしょう。
現場すべてに一度に着手する必要はありません。自コースにとって最も人手不足が深刻な現場はどこか、あるいは最も投資対効果を見込みやすい現場はどこか。そう問い直すところから、来年に向けたDXの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


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