ゴルフライフデザイン代表理事の木下です。
韓国のゴルフ市場は、アジアにおける最も革新的な成長モデルとして注目を集めています。現在、日本よりも人口は半分以下にも関わらず、日本よりも多くのゴルファーが存在し、そのうち大半が実際のコースとスクリーンゴルフの両方を楽しんでいます。
R&Aアジア太平洋総括理事のドミニク・ウォール氏も「韓国ゴルフの発展速度は信じられないほど速い」と評価するように、その成長は目覚ましいものがあります。
そんな韓国を先日訪問してきましたので、韓国のゴルフから日本のゴルフの未来について考察していきます。
スクリーンゴルフがもたらしたゴルフのカジュアル化
ソウル市内を歩くと、まず目を引くのは大通りに面して点在するインドアゴルフ施設の多さです。その中心となっているのが、Golfzon Parkをはじめとするスクリーンゴルフ施設で、全国に6,000箇所以上あるインドア施設では、1ラウンド3,000円程度という大衆的な価格設定で、気軽にゴルフを楽しむことができます。さらに特徴的なのは、プレー中にデリバリーフードを注文することが一般的な光景となっていることです。
一方、日本のインドアゴルフ施設は、主にゴルフの上達を目指す層をターゲットとしており、利用料金も月額制が多く、相対的に高額に設定されています。この違いは、両国におけるゴルフというスポーツの位置づけの違いを端的に示しているのではないでしょうか。
韓国では20~30代の若者たちが、仕事帰りにカラオケやボーリングに行くような感覚でゴルフを楽しんでいます。2020年に6,500万ラウンドを記録したスクリーンゴルフは、2023年には1億ラウンドに達したと予測されています。この「日常的なレジャー」としての位置づけは、ゴルフの敷居を大きく下げることに成功している。
しかし、韓国では直近、MZ世代(1981~2010年生まれの世代)のゴルフ離れが進んでおり、ゴルフを継続してもらうための取り組みに注力しているとのことでした。コロナ禍のゴルフバブルが落ち着き、ゴルフ人口が再び減少に転じた日本も同じ課題を抱えています。
日本には店舗を構えていないゴルフウェアブランド(写真はJason Dayが契約を結んでいることで有名なMALBON GOLF)の店舗があったり、直近のプレジデントカップでも日本は松山英樹選手のみが出場していたのに対し、韓国はトム・キム選手をはじめ4名の選手が出場していたり、韓国がアジアのゴルフを牽引しているというのを肌で感じました。
この成功の背景には、朴セリ選手やK.J.チョイ選手をはじめとするトッププレーヤーの活躍も大きく影響しています。彼らの成功は、アジア全域でゴルフを始める選手を増やし、特に女性ゴルファーの増加に大きく貢献しました。
実際、今や全世界で見られる女性ゴルファーの増加は、韓国から始まった現象だとR&Aは評価しています。
日本のゴルフの未来への示唆
韓国の成功事例から、日本のゴルフ産業が学ぶべき点は多いのではないでしょうか。
都市部における手軽な施設展開と大衆的な価格設定はゴルフの参入障壁を下げる上で重要です。気軽に立ち寄れる立地と、カジュアルな雰囲気づくりは、新規顧客の獲得に不可欠な要素となりますし、韓国では、テクノロジーを活用した354のコースのシミュレーションプレーが可能であり、この技術力を活かした新しいゴルフ体験の創出も、市場拡大の重要な要素となっています。
韓国のゴルフ市場から学ぶべき最も重要な点は、「変革への果敢な挑戦」と「業界の団結力」ではないかと感じました。伝統的なゴルフ文化を維持しながらも、新しい形態のゴルフ体験を創造することで、市場の裾野を大きく広げることに成功している韓国の事例は、日本のゴルフ産業にとって貴重な示唆となるでしょう。
韓国ゴルフ協会(KGA)、韓国プロゴルフ協会(KPGA)、韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)、そしてGolfzonをはじめとする民間企業が、明確な役割分担のもと密接に連携し、韓国ゴルフ場経営協会は2025年に向けて、MZ世代(ミレニアル・Z世代)の取り込みや気候変動への対応、高コスト構造の改善などの課題に対し、47億1,160万ウォン(約5億円)の予算を計上し、業界全体で取り組みを進めている。
若者たちが気軽にゴルフを楽しめる環境づくりと、それを支える業界全体の協力体制の構築は、日本のゴルフ産業の未来を左右する重要な鍵となります。R&Aがアジアのゴルフ市場への投資を増やしていく計画を持つ中、日本も韓国の成功例から学び、新たな成長戦略を描くべき時期に来ています。
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