『月刊ゴルフマネジメント』2025年1月号に代表理事である木下裕介の連載の第7回が掲載されました

2025年1月1日発行の『月刊ゴルフマネジメント』2025年1月号に代表理事である木下裕介の「ゴルフ場のデジタル革新」の連載の第7回が掲載されました。

今回は「ZOZO CHAMPIONSHIPのラストイヤーで感じたゴルフツアーのDX」というタイトルで、ZOZOチャンピオンシップの中で感じた、単なるゴルフトーナメント以上の、テクノロジーとスポーツの融合による新時代の幕開けについてまとめておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

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最終日、アコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブのギャラリースタンドで私は、日本におけるPGAツアー開催の歴史的な幕引きを目の当たりにしていた。選手たちの一打一打に込められた緊張感、ギャラリーの熱気、そしてコース全体を包む特別な雰囲気。現地で取材する中で、単なるゴルフトーナメント以上の、テクノロジーとスポーツの融合による新時代の幕開けを強く感じた大会となった。

今年のZOZOチャンピオンシップは、日本における開催の終章を飾った。大会はコロンビアのニコ・エチャバリアが見事な戦いを見せ、通算20アンダーで優勝を果たした。初出場での快挙となった今回の優勝は、2023年3月のプエルトリコオープン以来、ツアー通算2勝目となる快挙だった。

私がコース内を移動しながら特に注目したのは、ロープ際で黙々とレーザー測定器を操作するボランティアスタッフの存在だった。彼らの地道な作業が、実は画期的な試みの一部だったのである。PGAツアーは日本開催5回目となる本大会で、「SHOTLINK(ショットリンク)」のシステムをアジアで初めて導入したのだ。

デジタルトランスフォーメーションが変えるゴルフ観戦

ショットリンクは、2000年代初頭から米国で展開されているシステムで、全選手の各ショット位置を詳細に記録する。従来の放送では捉えきれなかった広大なコース上での全プレーヤーの動きを、デジタルデータとして可視化する革新的な取り組みだ。

今回の日本での導入では、ロープ際に配置されたボランティアスタッフがレーザーを使用して、停止したボールの位置を記録する第1世代のシステムが採用された。一方、本場米国では既に次世代システムへの移行が進んでおり、高精度カメラによるショット軌道の自動追跡が実現している。

この取り組みは、ゴルフ中継における大きなパラダイムシフトを示唆している。従来の放送モデルでは、限られた選手の、限定されたホールのプレーしか視聴者に届けることができなかった。しかし、ショットリンクの導入により、全選手のプレー状況をリアルタイムでデータ化し、多角的な観戦体験を提供することが可能となった。

データがもたらす新たなビジネス展開

PGAツアーのデジタル戦略は、観戦体験の向上にとどまらない。2023年、ツアーは「Golfbet」ブランドの自社運営化を実現した。これは、2020年にThe Action Networkとのパートナーシップで立ち上げられたプラットフォームで、ゴルフに関する包括的な分析、ニュース、洞察を提供している。

このサービスは、デイリーファンタジースポーツ(DFS)のプレイヤーから優勝予想の専門家まで、幅広いユーザー層をターゲットとしている。背景には、急成長するオンラインスポーツベッティング市場の存在がある。

市場予測によれば、2024年のオンラインスポーツベッティング市場は451億8000万ドルに達する見込みだ。さらに、2024年から2029年にかけて年間7.49%の成長率で拡大し、2029年には648億2000万ドルの市場規模に成長すると予測されている。

特筆すべきは、ユーザー数の急激な伸びだ。2029年までに1億8130万人に達すると予測され、ユーザー浸透率も2024年の3.8%から2029年には4.8%まで上昇する見込みである。ユーザー1人あたりの平均収益(ARPU)は330ドルと試算されており、特に米国市場は2024年時点で143億ドルと、世界最大の規模を誇っている。

変革期を迎えるゴルフビジネス

大会最終日、エチャバリアの優勝が決まった瞬間、私は改めてゴルフビジネスの新しい可能性について考えていた。ZOZOチャンピオンシップの日本開催終了は、確かに一つの時代の終わりを告げるものだ。しかし同時に、この大会で目の当たりにしたデジタル技術の活用は、ゴルフビジネスの新たな地平を切り開くものだった。

ショットリンクのようなデータ収集システムの導入や、それを活用したベッティングプラットフォームの展開は、ゴルフというスポーツの新しい楽しみ方を創出している。これは単なる技術革新にとどまらず、ゴルフ産業全体のビジネスモデルの転換を示唆するものだ。

この変革の波は、日本のゴルフ界にとっても大きな示唆を含んでいる。PGAツアーが実践しているデータドリブンな観戦体験の創出は、日本のゴルフ場運営やトーナメント開催にも応用できるはずだ。確かに、ショットリンクのような大規模システムの即時導入は現実的ではないかもしれない。しかし、例えばショット毎のリアルタイム配信など、できることから段階的に実装していくことは十分に可能だろう。

今後、データドリブンなアプローチがさらに加速することで、ゴルフはよりインタラクティブで魅力的なスポーツとして進化していくことだろう。その過程で、伝統的な価値観との調和を図りながら、新しいゴルフ文化を築いていくことが、業界全体の課題となるはずだ。米国での革新的な取り組みは、まさに日本のゴルフ界が目指すべき未来への道標となるのではないだろうか。


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