『月刊ゴルフマネジメント』2026年6月号に木下裕介の連載の第24回が掲載されました

『月刊ゴルフマネジメント』2026年6月号に木下が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第24回を掲載いただきました。

今回は、他業界のリセール(二次流通)モデルを参考に、ゴルフ場が導入すべき「収益防衛のDX」を深掘りします。

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「予約されていたはずの4名様が、何の連絡もなく現れなかった。」「前日の夕方に、体調不良を理由に5組のコンペがキャンセルになったが、キャンセル料を全く回収できなかった。」

ゴルフ場経営において、これほど虚しく、かつ実害の大きな瞬間はありません。ティータイムは一度過ぎ去れば二度と売ることのできないゴルフ場の在庫です。日本のゴルフ場における直前キャンセルやノーショーによる損失は、一説には年間の営業利益の5〜10%に相当するとも言われていますと推計されます。固定費の高いゴルフ場ビジネス特有の収益構造を考えれば、これはもはや経営において優先すべき防衛事項と言えるでしょう。

しかし、多くの経営者が「キャンセル料を請求すれば、二度と来てくれないのではないか」という不安から、規約を掲げつつも実運用は顧客の「善意」に委ねているのが現状です。そんな中、旅行業界やエンタメ業界などの他業界では、キャンセル料を「徴収する」というネガティブな発想から、予約の権利を「再販する」というポジティブな構造転換が加速しています。今回は、他業界のリセール(二次流通)モデルを参考に、ゴルフ場が導入すべき「収益防衛のDX」を深掘りします。

「請求」から「流通」へ:ホテル業界の先駆的挑戦

ホテル業界では昨今、大きなパラダイムシフトが起きています。その象徴が、今年1月に東急ホテルズ&リゾーツが導入した「宿泊権利の二次流通」モデルです。

従来の仕組みでは、予約者が急用で行けなくなった場合、高額なキャンセル料を支払うか、権利を無駄にするしかありませんでした。しかし、最新のDXプラットフォームでは、予約した宿泊権を他のユーザーに公式に「リセール(転売・譲渡)」することが可能になっています。

これをゴルフ業界に転用することは、ゴルフ場にとって二つの大きなメリットをもたらします。第一に、予約者は「最悪の場合、誰かに売ることができる」という安心感から、より早い段階での予約や、高単価な枠の確保を躊躇しなくなります。第二に、ゴルフ場側は、キャンセル料の請求というストレスフルな交渉をすることなく、リセール手数料を得ながら「稼働率の向上」を維持できるのです。二次流通市場の確立は、予約者にとっては「不測の事態への保険」となり、ゴルフ場にとっては「稼働率の最終的な保証」となります。この双益(Win-Win)の関係こそが、DXが目指すべき最適解と言えるでしょう。もはやキャンセル料は「罰金」ではなく、予約を流動化させるための「出口戦略」へと進化しているのです。

スポーツ・ライブ業界に学ぶ「公認リセール」の抑止力

スポーツやライブエンターテインメントの世界では、チケットの「公認リセールシステム」がすでに社会インフラ化しています。かつてはダフ屋の温床だった二次流通を、主催者公認のデジタルプラットフォームで行うことで、ファンは正当な価格で権利を譲り、主催者は空席を根絶しています。

この仕組みをゴルフ場に当てはめてみましょう。土日祝日の希少なティータイムを予約したものの、同行者の都合がつかなくなった。その際、ゴルフ場の公式アプリを通じて「予約枠をリセール」にかける。購入者が現れれば、元の予約者には返金が行われ、ゴルフ場には再販手数料が入る。このキャンセルによる損失をテクノロジーで防ぐ手法は、ルールを守る誠実なゴルファーを救い、不透明なキャンセルを未然に防ぐ最強のフィルタリングとして機能します。

「心理的会計」を刺激するプリペイドの魔力

さらに一歩踏み込んだ海外事例では、リセールと連動した事前決済の導入が、当日の客単価を押し上げるという興味深いデータが出ています。

行動経済学の観点から見れば、事前にプレーフィを支払っている顧客は、来場当日にはその出費を「過去のコスト」として処理しています。結果として、当日のレストランでの食事やプロショップでの買い物において、財布の紐が緩みやすくなる「メンタル・アカウンティング(心理的会計)」の効果が期待できるのです。

さらに、スタッフが「キャンセル料の集金」という精神的負荷の高い役割から解放されることで、より純粋なホスピタリティ業務に専念できるという副次的効果も無視できません。「キャンセルを未然に防ぎ、かつ当日の客単価も上げ、スタッフのエンゲージメントも守る」。DXによる決済の前倒しとリセール機能の組み合わせは、まさに攻守一体の経営戦略なのです。

段階的導入による「ソフトランディング」の設計

とはいえ、長年の常連客に対して突如として厳格な自動回収やリセール制を適用することに抵抗を感じる経営者も多いでしょう。ここでDXが提供するのは、「0か100か」ではない柔軟な移行プランです。

例えば、まずは「WEB予約のゲスト」に限定して事前カード登録を必須化し、メンバーに対しては「無断キャンセルの場合のみ自動適用」といった段階的なルール設計を行うことが可能です。また、キャンセル料をそのまま没収するのではなく、その数割を「次回のプレーで使えるバウチャー(クーポン)」として返還する仕組みをデジタルで構築すれば、「支払った以上、次こそは行かなければ」という再来場の動機付けに変えることができます。このように予約キャンセルのDXとは、徴収を自動化するだけでなく、顧客との関係性を「次へ繋げる」ためのリテンションツールでもあるのです。

DXは「公正なルール」を守るための武器である

日本のゴルフ場において、キャンセル料の回収が遅れてきたのは、ゴルフが「紳士のスポーツ」であり、互いの善意を前提としてきたからです。しかし、不特定多数の予約がデジタルで入る現代において、一部の無責任な行動によって経営が圧迫され、そのしわ寄せが「ルールを守る誠実なゴルファー」に行くことこそ、最も不健全な状態と言えるでしょう。

DXとは、現場の苦悩を数値化し、それを「公正なルール」として再設計するためのツールです。ホテル業界やエンタメ業界が証明したように、テクノロジーによって「予約の権利」を流動化させることは、決して顧客への不誠実ではありません。むしろ、コースを愛し、大切に扱ってくれるファンを守り、彼らに「損をさせない選択肢」を提供するための、経営者の深い愛情そのものなのです。

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