『月刊ゴルフマネジメント』2026年7月号に木下裕介の連載の第25回が掲載されました

『月刊ゴルフマネジメント』2026年7月号に木下が担当する連載「ゴルフ場のデジタル革新」の第25回を掲載いただきました。

今回は、ゲストと従業員、そしてコースの稼働率という三方の資産を守り抜く、「暑さ」に対するマネジメント戦略を深掘りします。

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2026年5月、早くも列島を襲っている真夏日は、ゴルフ場経営において「熱中症対策」を単なるマナーの啓発から、経営上のリスクへと引き上げました。かつての暑さ対策は、氷嚢の準備や飲料の販売、あるいは「無理をしないでください」という声掛けといった、現場の善意や気遣いによる「点」の対応が中心でした。

しかし、労働力の希少化が極まり、2025年6月から事業場における熱中症対策が義務化され、安全配慮義務がこれまで以上に厳格に問われる現在、暑さは根性で耐えるものではありません。テクノロジーと緻密なデータによって予測し、科学的に回避すべき経営課題へと定義が変わっています。今回は、ゲストと従業員、そしてコースの稼働率という三方の資産を守り抜く、「暑さ」に対するマネジメント戦略を深掘りします。

「現場を支える人」を守る:従業員の安全管理DXとリテンション

ゴルフ場の運営を支えるコース管理スタッフやキャディにとって、近年の酷暑は単なる「過酷な労働環境」を超え、生命を脅かすリスクそのものです。深刻な人手不足が続く今、スタッフ一人の熱中症による離脱は、即座にキャディ付きプレーの制限やメンテナンスの遅延、ひいては営業機会の損失に直結します。従業員を守ることは、今や福利厚生ではなく「事業継続計画(BCP)」の核なのです。

ウェアラブルデバイスによる「予兆」の検知

最先端の現場では、スマートウォッチやバイタルセンサー内蔵のアンダーウェアを用いた「見守りシステム」が実用化されています。これは、スタッフ個々の心拍数、体表温度、発汗量などをリアルタイムでモニタリングし、AIが熱中症の初期兆候(脱水症状の予兆など)を検知すると、即座に本人とマスター室のダッシュボードへアラートを発信する仕組みです。「本人が自覚する前に、データが異常を知らせる」体制は、重大な事故を未然に防ぐ強力な経営の盾となります。

物理的装備と「タスクの再配置」による負荷軽減

電動ファン付きベスト(空調服)の全スタッフ支給はもちろん、首元の頸動脈を冷却するペルチェ素子デバイスの導入も進んでいます。また、デジタルを活用した業務改革も欠かせません。例えば、自動芝刈機の稼働率を高めることで、日中の最も過酷な時間帯に行っていた屋外作業を最小化し、スタッフを涼しい早朝や屋内での機械整備業務へとシフトさせる働き方の改革が、スタッフの心身のエンゲージメント維持に劇的な効果を上げることとなるでしょう。

「プレースタイル」を多様化する:時間軸の拡張による収益最適化

「真昼の炎天下で18ホールを回る」という伝統的なプレースタイルが、健康リスクと直前キャンセルの増加を招いている現状に対し、先進的なコースは営業時間を「垂直方向」に拡張しています。これは単なる避暑策ではなく、これまでリーチできなかった客層を取り込み、稼働率を最大化する攻めの収益戦略です。

アーリーバード(早朝スルー)の収益モデル

午前4時半〜5時台にスタートし、気温がピークに達する正午前にホールアウトする「早朝スルー」は、今や多忙なビジネスパーソンや体力温存を重視する高齢層、さらには時間を有効に使いたい若年層から絶大な支持を得ています。早朝の爽やかな空気の中でのプレーは、熱中症リスクを物理的に下げるだけでなく、午後からの集中的なコースメンテナンス時間の確保といった、現場オペレーションの効率化という副次的なメリットも生んでいます。

ナイトゴルフ(ナイター営業)のエンタメ化

LED照明技術の飛躍的な進化により、夜間のプレー環境は劇的に向上しました。「仕事帰りのハーフ」や「夕涼みのラウンド」は、猛暑により日中のプレーを敬遠していた層を呼び戻すだけでなく、幻想的な演出によるSNS映えも相まって、若者や女性といった新規ゴルファーを開拓する絶好の機会となります。日中の稼働が制限される猛暑日において、夜間という「第2の稼働時間」を収益化できるかどうかが、夏場の経営格差を決定づけます。

コース内のミクロクライメイトを可視化する:WBGT(暑さ指数)の戦略的活用

広大なゴルフ場では、場所によって風通し、湿度、照り返しが劇的に異なります。テレビで流れる広域の「熱中症警戒アラート」だけでは、現場の正確なリスクを把握することは不可能です。今、求められているのは、コース内の「ミクロな気候データ」の解像度を上げることです。

データは「快適なゴルフ」を楽しむライフスタイルを裏支えする

日本の夏がこれほどまでに激甚化してしまった以上、ゴルフ場運営のOS(仕組み)もアップデートしなければなりません。DXの本質とは、見えない「暑さ」という目に見えない脅威を数値化し、現場の判断を「個人の勘」から「組織のエビデンス」へと引き上げることです。

「今日は暑いから気をつけてください」という抽象的な声掛けを、具体的な数値とそれに基づく「新しい楽しみ方の提案(早朝・夜間)」という価値提供へ。この情報の解像度こそが、より多様なプレースタイルを受け入れるゴルフ場のホスピタリティであり、経営の安定性に直結するのではないでしょうか。暑さを嘆いて来場を待つのではなく、テクノロジーと共に「涼しく、安全で、新しいゴルフ」を戦略的に提供する。その決断が、夏のフェアウェイを再び活気づける鍵となるでしょう。

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